東直巳『探偵はバーにいる』ハヤカワ文庫 1995年

 札幌ススキノにたむろする便利屋“俺”のもとに,北大の学生が,突然姿を消した同棲相手の捜索を依頼してきた。“俺”は,簡単な人捜しと思って調査を始めるが,どうも彼女の失踪には,ラブホテルで男が殺された事件が絡んでいるらしい。そして“俺”の周りにうろうろし始めるガキどもやヤクザたち。失踪した女と殺された男はどう結びつくのか? そして女はどこにいるのか? “28歳のぢぢい”の底力をなめるなよ!とばかりに雪舞うススキノを駆けめぐる“俺”が行き着いた真相は・・・。

 物語は,失踪した女子短大生を探す“俺”の前に転がり込んでくる殺人事件やら,「ガキ」どもの襲撃,ヤクザ屋さんの裏の事情,そしてお約束の憂いを含んだ美女,と,テンポよく進み,展開もスムーズで,読みやすいです。最後の結末も,裏のそのまた裏,という感じで楽しめました。
 また“俺”の,ヤクザだろうが誰だろうが,相手かまわない辛辣なセリフは,なかなか小気味よいです。だから物語としてはそれなりにおもしろかったのですが,ただ,なんとも癖のある主人公ですねえ。口が悪くて,つっぱらかしていて,したたかで,そのくせナイーブな一面も持っていて,けっこう情にもろい。まあ,慣れれば,それはそれなりに味のある主人公なのでしょうが,残念ながら,どうも物語の最後まで馴染めませんでした。なんだか妙に偽悪を気取った主人公というのは,あまり感情移入ができないようです(「偽悪」と言い切ってしまっていいのかは,多少ためらいを感じているのですが)。

 それにしても,事件の“真相”は,哀しいというか,怖いというか,やりきれないようなものがあります。人が死のうがどうしようが,「済んでしまったことは仕方がない」と切り捨ててしまう,ある種の冷たさ(あるいは自分可愛さ)は,言った本人がその冷たさを自覚していなければいないで不気味さがありますし,自覚していたらいたで,やはり肌寒いものがあります。そんな風に考えると,馴染めないとはいえ,“俺”の方に近しい気持ちを持っている自分に気づくのです。

 ところで,会話をそのまま文章にすると,ほんと,読みにくいですね。くり返しは多いわ,主語と述語がくちゃくちゃになるわ。逆にいえば,小説中の“会話”が,実際の会話からはかけ離れたものであるということなのでしょう。

 それから,“俺”はほんとうに酒をよく飲みますねえ。ほとんどアルコール依存症ではないでしょうか? 読んでいて,他人事ながら,“俺”の肝臓が心配になりました(笑)。

97/06/11読了

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