阿刀田高ほか『日本推理作家協会賞受賞作全集31 短編集III』双葉文庫 1996年

 1編1編は,タイトル通り,日本推理作家協会賞を受賞した作品だけあって,いずれも味のあるもので,その点では楽しめました。ただ1冊のアンソロジィとして見れば,やはり「他人のふんどしで相撲を取る」といった感じがどうしても拭いがたく,素直に「\(^o^)\」はつけられないのが残念です。

戸坂康二「グリーン車の子供」
 歌舞伎界の重鎮・中村雅楽が,大阪から乗ったグリーン車。彼の隣にひとりの少女が座り…
 いったいいつになったら「謎」が出てくるんだろう,と思っていたら,突然の謎解き。すると,それまでの伏線がするすると明快に浮かび上がってきて,軽やかに着地。雅楽の推理しきれなかった最後のオチもいいです。
石沢英太郎「視線」
 半年前,行員の1名が殺された銀行強盗事件。すでに解決されたはずだったのだが,梶原刑事には引っかかるものが…
 オチは見当がついてしまうところもありますが,さりげない行為に込められた「殺意」が不気味です。
阿刀田高「来訪者」
 産院で雇った雑役婦。退院後も,女は真樹子のもとにひんぱんに訪れてくる。彼女の真意は…
 前半で,お高くとまった真樹子のキャラクタが多少誇張されている部分が,ちょっと鼻白みますが,後半のパタパタと明かされる真相(?)が持つ底知れぬ恐怖を描くために,必要だったのかもしれません。
仁木悦子「赤い猫」
 車椅子生活を送る老婦人の話し相手に雇われた沼手多佳子。彼女は,子供の頃,母親が何者かに殺されており…
 老婦人のアームチェア・ディテクティブ振りは鮮やかでいいのですが,彼女の最後の遺言は,その鮮やかさを多少色褪せさせているきらいがなきにしもあらず,といったところです。しかしその分,この作品が持つ暖かみが増幅されているように思います。
連城三紀彦「戻り川心中」
 二度の情死未遂ののち自害して果てた大正の天才詩人。彼の死の裏側にはいったいなにがあったのか…
 二重三重にツイストして,最後の真相が明かされるプロセスが,作者独特の叙情豊かな文章と合わさって,なんとも味わい深いです。また“真犯人(?)”の動機も鬼気迫るものがあります。
日下圭介「木に登る犬」
 弟の友人が,自分の犬は木に登ると主張して譲らないのを耳にした“ぼく”は…
 この作品も二転三転するオチがいいです。とくに最後の一文が,子供の無邪気さの背後に隠れた「悪意」が見え隠れして不気味です。
日下圭介「鶯を呼ぶ少年」
 少女は,ある日“鶯を呼ぶ少年”と知り合いになった。そんな折り,街では殺人事件が発生し…
 暗く哀しい物語ではありますが,おばあさんのいまわの際の一言で,どこか救われたような気分になります。映画のように,短いカットを積み重ねる手法も,トリックとして効果的に使われています。

97/10/31読了

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