我孫子武丸『小説たけまる 増刊号』集英社 1997年

 タイトルからもわかりますように,「雑誌」の体裁をとった短編集です。メインとなるミステリ短編,ホラー短編はもとより,折り込みの目次あり,巻頭グラビアあり(この作者,『花まるマーケット』(TBS)に出てくる斎藤アナにちょっと似てます(笑)),評論あり,エッセイあり,コラムあり,異色対談あり,と,なかなか凝っています。装幀は京極夏彦だそうです。
 そういった体裁は楽しめたのですが,収録されている短編は,正直,玉石混淆,石が少々多め,といった感じです。

 この本には「戦慄のホラー大特集」と題して,7編のホラー短編が収録されています。作者自身の「解題」によれば,これらの7編は,ある共通したテーマで統一されているそうです。ですから,一種のパロディ的な側面もないわけではないのでしょうが,その共通テーマについて知らないので,そこらへんのパロディ的面白味もいまひとつ味わえませんでした。なにより,あまり怖くない,という,ホラーとしても少々,中途半端な感じが否めません。その中で,誘拐された婚約者をめぐる騒動を描いた「青い花嫁」が,ラストでニヤリとさせられましたが,これはホラーというより,どちらかというとミステリですね。
 それとこの7編にはいずれも,蛭子能収の挿し絵がついているのですが,はっきりいって,この人の絵は,あまりに「濃すぎて」,文章を「食ってしまい」挿し絵向きではないように思います。このことも楽しめなかった理由のひとつかもしれません。

 ミステリの方は,「傑作 ミステリー特選」として4編,「珠玉の短編読み切り」と題して6編,計10編が収録されています。全部というわけではありませんが,そのうちのいくつかの短編は,トリックやら仕掛けやらの点で,似たようなテイストを持っている作品です。それらが,異なるタイプの作品の中に,1編あるいは2編くらい挿入されていてれば,それなりにおもしろく読めたのかもしれませんが,こんな風に1冊にまとめられると,残念ながら,「ああ,またか・・・」という印象をどうしても持ってしまいます。そこらへんで損をしているようなところがあるのではないでしょうか?
 ミステリで楽しめたのは,二転三転する展開の果てに,ショッキングでグロテスクなラストが待ち受ける「小さな悪魔」と,狸と狐の化かし合いのような感じの一幕劇「車中の出来事」といったところです。

 フェイス・マークは,単なる短編集としてみると,「(-o-)」なのですが,凝りまくりの体裁が楽しめたのと,「綾行人の新作『一刻館の殺人』」に笑ってしまったので,「(~-~)」ということにします。

98/05/20読了

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