堀晃『太陽風交点』徳間文庫 1981年

 「冒険の構造は何千年経っても変らない。冒険家が犯そうとする禁断,破られるべき禁忌(タブー)だけが変るのだ」(本書「暗黒星団」より)

 「第1回日本SF大賞」受賞作にして,この作者の代表的な短編集です。高校生の頃,故郷の市立図書館でハードカヴァを借りだして読んで以来ですから,20年ぶりくらいの再読でしょうか。10編を収録。気に入った作品についてコメントします。

「イカルスの翼」
 “私”に対する処刑は,太陽の間近に接近する小惑星上で,60日間を過ごすことだった…
 どのようにして灼熱地獄を回避するか?という方法は,途中で見当がつきますが,その過程で描かれる,人間と機械との宿命的な関係が興味深かったです。それゆえにラストの主人公の「決意」は,ささやかでもありもの悲しくもあります。
「暗黒星団」
 6個のブラックホールで囲まれたアダマス第2惑星。そこで見られる生物の奇怪な生態の理由は…
 地球上で観察されるある現象を,別の状況で異なる形で発現させるところが,SF的想像力の醍醐味のひとつでしょう。本編もまたそれをフォーマットしながら,謎を含んだ魅力的なイントロダクション,主人公の冒険,合理的な謎の解明,ショッキングなラストと,ストーリィ・テリングにおいても秀逸です。
「迷宮の風」
 遭難した科学者を救助するため,タキは複雑に入り組んだ地下迷路へ入るが…
 「暗黒星団」に登場した宇宙飛行士タキと,科学者ヤマモトが再登場。どこか飄々としていて,知的好奇心の塊といった感じのヤマモト博士のキャラが好きです。
「最後の接触」
 退屈な日常の繰り返しに飽いた男は,とある実験への参加を志願するが…
 人間の“性能”を機械の一部として利用するという,いわば「逆転の発想」を描きながら,人間であるがゆえに,その制御を振り切ってしまうというお話。人間の持つポテンシャルを描きながらも,ラストは皮肉な感じですね。
「骨折星雲」
 真ん中で直角に“折れた”星雲の謎を解明するために,宇宙船が送り出されるが…
 核となっているアイディアは,別の作品で読んだことがありますので,SFでは定番なのかもしれませんが,「直角に折れ曲がる星雲」という謎が魅力ですし,その情景描写が壮大で,いいですね。
「太陽風交点」
 事故で死んだはずの恋人が,ヘルクルス110で生きていると聞いた“私”は…
 人間とは異なるタイプ生命と知性,宇宙空間で繰り広げられるカタストロフ,SFならではの奇跡,と,わたしの好きなテイストに満ちた作品です。また漆黒の宇宙を飛ぶ“太陽ヨット”の荘厳で幻想的なシーンが鮮烈です。
「悪魔のホットライン」
 エリダヌス座イプシロンへと向かう航星船で,“私”はひとりの男と知り合う…
 科学史上のある有名な比喩を巧みに換骨奪胎してSF的状況を生みだし,その上で,人間が人間として生きていくために何が必要か?ということを描き出しています。「知識は補給できるが,想い出は補給できない」というセリフが,胸に「ずん」ときます。

02/10/31読了

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