新津きよみ『胎内余罪』ケイブンシャ文庫 1997年

 一夜の情事の後,有坂周平の前から姿を消した岡元ゆず子。彼女は,編集者として少女小説家・並木亜砂子の前に現れた。ゆず子に不思議な懐かしさをおぼえる亜砂子。そして20年前の少女誘拐殺人事件の記憶を胸に秘めるゆず子。ふたりの持つ記憶が結びつくとき,隠された事件の真相が浮かび上がる・・・。

 古い友人に久しぶりに会って,昔話に花を咲かせているときなど,自分の相手についての記憶と,相手の自分についての記憶が微妙に(ときとしてまったく)違っているというようなことが,ままあります。この作品でも出てきますように「記憶というのは曖昧なもの」です。だから,自分は忘れていても,もしかすると心の奥底には,とんでもない記憶が眠っているかもしれません。

 なんというか,どう評したらいいのか,よくわからない作品です。最初の1/3は,エキセントリックな主人公に振り回される感じで,なかなかストーリー展開についていけません(人それぞれかもしれませんが)。ところが中段1/3あたりは,編集者として並木亜砂子の前に出現した岡元ゆず子の意図はなんなのか? そして亜砂子のもとに送られてきた手紙が意味するものはなんなのか? といった謎をめぐって,物語はぐいぐいと進んでいき,けっこう楽しめました。男性陣の情けなさがなんともいえませんね。女性陣のたくました,したたかさ,そして存在感のある魅力に比べると,ほとんど陽の下の星,といったところです。そして後段1/3,物語を大きく展開させる事件が起こります。この事件は,ラストの薄ら寒さというか,不気味さを醸し出すために必要な事件なのかもしれませんが,なんだか浮いていて,どうしても「接ぎ木」的な印象が拭えません。ネタも,超有名作『××××』にそっくりですし・・・。最後の結末も,たしかにドンデン返しではあるのですが,素朴な疑問として,7歳の子どもが××××することはあり得ても,それをきれいさっぱり忘れてしまうようなことがあるのでしょうか? いまひとつリアリティが感じられませんでした。

97/06/21読了

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