有栖川有栖『スウェーデン館の謎』講談社文庫 1998年

 取材旅行で磐梯を訪れた作家・有栖川有栖,彼はそこで通称“スウェーデン館”に住む童話作家・乙川リュウ夫妻と知り合う。楽しいひとときを過ごしたアリスだが,翌日,館の客のひとりが離れで死体となって発見された。現場は“雪密室”状態。犯人はどこに消えたのか? そして4年前に起きた少年の水死と関係があるのか? アリスは友人の火村を呼び出し・・・。

 火村&アリスの「国名シリーズ」第2弾は長篇です。
  雪密室,限られた容疑者,真相を解き明かす名探偵・・・,本格ミステリの定石をしっかりふまえた有栖川作品の定番中の定番といった感じの作品です。とくに,ほんのわずかな手がかりから,これまで考えられていた状況を一変させ,一気に真相へと展開させる火村の推理は,まさにこの作者ならではものといえるでしょう。
 ただ難がないわけではなく,それは警察を介入させたことでしょう。もし,警察が介入できないような「クローズド・サークル」であったら,火村の推理における「逆転」も違和感なく読めたのでしょうが,かりにも警察が状況検分・検死をやったことになっている設定では,ちと首をひねるところがあります。つまり,警察が検死をやったら真っ先に検討すべき問題が,この作品ではすっぽり落ちているのです。ましてやこの作品での死体の発見状況からすれば,問題にされないのは,ちとアンフェアな感がまぬがれません(本作品のトリックの核心に触れる部分ですので,抽象的な書き方しかできません。ご容赦!)。
 この作者の「学生アリス・シリーズ」では,しばしば「ゲーム・ミステリ」というシチュエーション―大学のミステリ研で学生同士が問題を出し合うような類の―が,しばしば採用されていますが,それらを読むと「ゲームだから成り立つトリックだよなぁ。警察が本格的に調べたら,とても成り立たないようなぁ」と感じることが,けっこうあります。この作品では,そんな部分が出てしまっているようにも感じられます。

 しかしこれだけ悪口を書きながら,なぜフェイス・マークが「(~-~)」なのかというと,作品全体の雰囲気がけっこう好みだからです。多少(?)偏見もあるかもしれませんが,この作者の作品は,パズル性を重んじるせいか,「地味」あるいは「愛想がない」といったイメージが強かったのですが(あるいは逆に情景描写が上滑りのようなところもあります),この作品の場合,雪に覆われた裏磐梯,そこに立つログハウス風の“スウェーデン館”,巨体の童話作家とその妻,幼くしてして水死した金髪の少年,などなど,せつなくもの悲しいエンディングの雰囲気とよくマッチしていて,楽しめました。

98/08/12読了

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