山口雅也『垂里冴子のお見合いと推理』講談社ノベルス 2000年

 垂里冴子(33歳)は,大の読書好きで,厚い眼鏡をかけてはいるものの,和服の似合う清楚な美人。ところがお見合いのたびにトラブルが発生して,破談になること12回。まるで何者かに呪われているかのような運命ながら,彼女本人はいたってのんびり,読書三昧の日々を送る・・・

 主人公垂里冴子を中心に,その妹の空美,弟の京一をメイン・キャラクタとした連作短編集です。作者自身が書いているように,これまでの作品に比べると,かなりテイストの違う「ライト・ミステリ」的な作品です。各編,トリックや謎解きはいずれも「小粒」ではありますが,お見合いの席というユニークなシチュエーションと,登場人物たちの魅力的な造形のため,楽しい作品に仕上がっています。また,もともとこの作者の作品には,しばしば辛辣な社会批評的な,ときにブラックとさえ呼べそうなユーモアが盛り込まれていますが,この作品では,その辛辣さ,ブラックさがオブラートに包まれ,上質なコメディになっています。

 「春の章 十三回目の不吉なお見合い」は,お見合いの席で,相手の男に交際している相手がいることがわかり,冴子たちはその相手の家に乗り込むことになるが・・・というお話。前半はキャラクタ紹介的な色合いの強いエピソードですね。「2時間サスペンス・ドラマ」にありそうな話を,発想の転換から巧みなツイストを導き出しています。
 「夏の章 海に消ゆ」では,自衛隊所属の相手が,お見合いの席から不可解な状況で姿を消す,という内容。メイン・トリックそのものは,古典的なものではありますが,注意深く引かれた伏線とその回収の鮮やかさが楽しめます。本集中,一番楽しめました。
 「秋の章 空美の改心」では,それまで「恋愛派の刺客」として,「お見合い界の孤高のハンター」入見合子と舌戦を繰り広げてきた次女空美が,恋人に騙されたことから「お見合い派」に「改心」するというストーリィ。謎解きは4編中,一番「小粒」で,むしろ空美の「猫かぶり」の姿―それはお見合いの席に大なり小なり見られることなのでしょうが―が笑える作品です。
 「冬の章 冴子の運命」は,ついに冴子が出会った気の合う「同類」,小説家の篠原荒野との出会いと別れを描いています。スラプスティク色の濃い作品集の中で,しんみりとした雰囲気の漂う内容になっています。それにしても,森博嗣の某キャラクタの名前の由来がこういうところにあったのか,と感心してしまいました(笑)。

 続編が出るわ,TVドラマ化されるわ,たしかに人気の出そうなシリーズではありますね。

00/08/25読了

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