ディーン・クーンツ『闇へ降りゆく』扶桑社ミステリー 2000年

 「Strange Highways」と名づけられた,全3冊よりなる短編集の第2集です。新旧取り混ぜた7編を収録しています。

「フン族のアッチラ女王」
 平和な田舎町で<種子>は目覚めた。この惑星を支配するために…
 一口に「モダン・ホラー」といった括りをしても,スティーヴン・キングジョン・ソールなどと,この作者とは,テイストというか,ベクトルみたいなものがずいぶん違います。「恐怖の金太郎飴」とまで言われながらも,この作者がハッピィ・エンディングにこだわっていたのは,この作品に見られるような楽天性に由来するのかもしれません。ハヤカワ文庫の『ハードシェル』に収録されているとのこと,読んだはずなのに,すっかり忘れてました(笑)
「闇へ降りゆく」
 “わたし”が買った新居には地下室がついていた。“わたし”にしか見ることのできない地下室が…
 「地下室」と「心の闇」というアナロジィは,少々陳腐ではありますが,主人公の設定が巧いせいでしょうか,コンパクトにまとまったサイコ・サスペンス風ホラーにまとまっています。また「最上の人間のなかにも,暗闇がひそんでいる。ましてや最低の者ともなれば,ひそむどころではなく,それに支配されている」という冒頭の一節が,余韻あふれるラストに響き合って効果的です。「最上」と「最低」とはいかなる基準で決められるのか,考えはじめると悩んでしまいますね。本集中,一番楽しめました。
「オリーの手」
 不思議な能力を持つオリーは,麻薬で自殺しようとした女性を助け…
 「超能力者の孤独と悲哀」という,オーソドックスなネタの作品です。主人公の助けた女性の言動の変化が,それを鮮やかに切り取っています。
「ひったくり」
 ひったくりを仕事にするビリーは,ひとりの老婆から大きなバッグを奪い取り…
 ストレートなホラーです。バッグから出てくる「悪魔」の造形がじつに秀逸で,外見だけでなく,その行動様式が,ある種の昆虫を連想させ,不気味さを増幅させています。
「罠」
 吹雪の夜,足を骨折した息子とともに帰宅したメグを待っていたものは…
 吹雪で閉ざされ孤立した家,母子家庭,怪我をした子ども,バイオ・テクノロジィが生み出したモンスタ,暗い過去を背負った男・・・通俗的といえば通俗的ですが,これこそクーンツの独壇場といったところでしょう。冒頭での,足を骨折した少年の「罠にかかったみたいだ」というセリフと,自動車事故で,さながら「罠」にかかったようにして死んだ父親のイメージで,これからふたりを待ち受ける苛酷な運命を暗示させるところは,巧いですね。
「ブルーノ」
 ある夜,私立探偵の“おれ”のところに,一頭の熊がやってきた…
 SFとハードボイルドとをこね合わせ,さらにパロディ風味を一滴たらした奇妙な手触りの作品です。パラレル・ワールドからきた“熊型ミュータント”の刑事がユーモラスで,どこかマンガを読んでいるような感じがします。
「ぼくたち三人」
 ジョナサンとジェシカとぼく――三人は超能力を持った新人類だった…
 ミュータントの出現による旧人類の滅亡を描いた掌編です。結末で「ニヤリ」とさせられます。現実世界のグロテスクなパロディとしても読めます。

00/02/11読了

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