西澤保彦『ストレート・チェイサー』カッパノベルズ 1998年

 ある土曜の夜,リンズィはバーで知り合ったふたりの女性と意気投合,酔っぱらううちに“トリプル交換殺人”を約束させられてしまう。翌日,彼女のボスの家で殺人事件が発生,おまけに現場は密室状態。悪趣味な冗談だと思っていた“交換殺人”が実行されたのか? うろたえるリンズィの前で事件は連続密室殺人へと発展し・・・。

 う〜む,評価の分かれる作品ではないでしょうかねぇ。
 展開そのものは,つぎつぎと登場する,いわくありげなキャラクタ,密室をはじめとして,しだいに深まる謎,錯綜する人間関係などなど,サスペンスフルでテンポがよく,サクサクと読んでいけます。また有栖川有栖の推薦文「最後の一行で読者(あなた)はのけぞる!」というのも,たしかに正鵠を得た文章で,わたしも最後の一行で,「ああ,なるほど。あの,ちょっと全体の中で浮いたような部分の描写は,こういう意味だったんだ!」と膝を打ちました。だから以上のような点では,なかなか楽しめた作品ではあります。
 ただ,密室トリックがどうもいまいち納得できないんですよねぇ。いえ,理解はできるんですけど,提示のされ方がいまひとつ消化不良気味という感じです。なにしろあの西澤保彦ですから(笑),「なんでもあり」といってしまえばそれまでなんですが,それはあくまで,読者がある一定のルール,共通の土俵の上に立った上での「なんでもあり」であって,この作品みたいに,途中から突然ポンと,悪く言えば「だまし討ち」のような形で提示されると,「おいおい,そりゃあんまりじゃないか」と首をひねってしまいます。まあ,だからこそ「のけぞる最後の一行」ということになるんではありますが,う〜む,う〜む・・・。

 それと,この作者は,相変わらず,いろいろと社会問題や人間関係の悩みを作中に取り入れようとしているんですが,なんだか「うわすべり」という印象が拭えません。結局,それらが登場人物の「セリフ」で描かれているせいではないでしょうか? とくに追いつめられ,激昂した登場人物のひとりが,とうとうと「動機」を述べるシーンは,本当は狂気じみた鬼気迫るシーンなのでしょうが,少々迫力不足という感じですね。

98/04/26読了

go back to "Novel's Room"