小池真理子『双面の天使』集英社文庫 1989年

 3編の短編と1編の中編よりなります。小池真理子の作品に,読後の爽快感とか解放感を求めるのは,花屋で牛肉を買おうとするようなものですが,それにしてもこの作品集は,なんか絶望的な感じというか,後味の悪い作品が多いですね。「愚かさ」がさまざまな悲喜劇を生む物語は,彼女の作品に多々ありますが,その「愚かさ」は一種,自業自得な場合が多く(あるいは「策士,策に溺れる」みたいな感じ),最後に「にやり」とするようなアイロニーがあります。しかし,この作品の登場人物の「愚かさ」は,あまりに悲惨すぎて,そういったアイロニカルな部分に欠けているような気がします。とくに表題作と「薔薇の木の下」は,その感が強く,犯罪を犯したにも関わらず,登場人物に同情してしまいます。

「共犯関係」
 ルリコという,死んだ妻と同じ名前を持つ雌猫を愛する男は,行きずりの情事のあとで居座った女が邪魔になって…
 「狂気」は,日常の奥底に伏流のように流れるがゆえに,よりいっそう怖いのでしょう。
「眼」
 ニューヨーク行きの資金を得るため,宝石商に忍び込んだ男たちは,居残っていた女性社員を殺してしまう。もうひとりの目撃した女性社員は,なぜか彼らの顔を証言しない。真意を確かめるため,彼女に近づいた彼らは…
 ラストは,女のくすくす笑いがなんともいえず,不気味で救いようのない雰囲気が漂ってます。
「薔薇の木の下」
 植木職人の雅樹は,良家の人妻・美和子と不倫関係をもってしまう。それを美和子の妹・仁美に知られ,脅迫された雅樹は,思わず仁美を殺してしまい…
 ううむ,なにやらむちゃくちゃ後味が悪いです。「身から出た錆」というには,主人公が哀れすぎるような気がします。
「双面の天使」
 金持ちの男と結婚した和歌子が,前の恋人との間にできた子どもを,結婚相手の子と偽ったことから…
 いわゆる「恐るべき子どもたち」ものです。そりゃあ,たしかに和歌子もろくでもない性格の女性かもしれませんが,あんまりといえばあんまりなラストですね。愚かさは罪だ,と言われているようで・・・。

97/03/29読了

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