有栖川有栖『双頭の悪魔』東京創元社 1992年

 四国の山中に造られた芸術家村“木更村”。外界との交渉をかたくなに拒絶するその村に,英都大学推理研の“マリア”こと有馬麻里亜が入ったきり帰ってこない。彼女の父親に頼まれ,村を訪れたアリスら一行。しかし折からの集中豪雨で橋が落ち,江神部長が木皿村に取り残された。そして孤立した木皿村で殺人事件が発生。同じ頃,対岸の夏森村にいるアリスたちもまた殺人事件に巻き込まれていた・・・。

 『月光ゲーム』『孤島パズル』に続く,「学生アリスシリーズ」の長篇第3作,この作者の代表作と呼ばれる作品です。例によって古本屋で購入しました。

 さて物語は,マリアの視点で描かれる「木更村」の章と,アリスを中心とする「夏森村」の章とが交互に配されながら進んでいきます。
 「木更村」では,横溝正史ばりの鍾乳洞の中で殺人事件が起こります。もちろん誰が殺したのか,というフゥダニットが中心ですが,暗闇に閉ざされた洞窟の中,どこにいるかわからない被害者を,犯人はどのようにして見つけたか,という,いわば「ハウダニット」に近い謎も提示されます。さらになぜ死体に香水を振りまいたのか? なぜ右耳を切り落としたのか,などなど多彩な謎が散りばめられます。
 一方,「夏森村」では,木更村に住む元アイドルをつけ狙う写真雑誌のカメラマンが殺されます。彼を殺す動機があるものは夏森村にはいない,木更村にはいるのだが,殺されたとき,橋が落ちていて交通は不能,では一体誰が? なぜ? という謎です。
 展開が淡々としているというか,単調というか,そこらへんはこの作者の「持ち味」なのでしょうね,慣れてしまったところがあります(笑)。でもって,江神が木更村の事件を,そしてアリス・織田・望月の3人組が夏森村の事件を,それぞれ,小さな矛盾,わずかな齟齬を手がかりとしながら,論理的に解いていくところも,エラリィ・クイーンが心底好きらしいこの作者らしいところです。
 ですから,途中まで,あるいは終盤近くまで,サクサク読んではいけるものの,動機不明ながら論理的に指摘された犯人が,どろどろとした動機を(とってつけたように)語ってエンディングなんだろうな,などと思っていたわけです。もちろん,このふたつの村で起きた事件をどう結びつけるのか,という興味はありましたが・・・。
 ところが最後の最後になって江神によって明らかにされた真相,これは正直「やられた!」と思いました。トリックそのものは,多少アレンジは加えられているものの,けっして斬新なものではありませんが,外界と寸断された「クローズド・サークル」としての舞台設定が巧みに利用されていて,その「トリック」へと発想を向けさせないような,上手なミス・リーディングになっているように思います。
 自分のスタイルを堅持しながらも,そのスタイルをうまく利用した「技あり!」といった感じの作品ではないかと思います。タイトルも読み終わってみると,なかなか味わいがありますね。

 それにしても表紙の女性の顔,マリアのイメージなのでしょうか? どうも斎藤慶子に似ているように思えるんですが(笑)

98/09/20読了

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