今邑彩『七人の中にいる』中公文庫 1998年

 ペンション「春風」のオーナー村上晶子のもとに届いた一通の手紙と写真。それは,彼女の21年前の犯罪を告発し,復讐を予告するものだった。おりから,彼女の再婚パーティに招かれ,ペンションに集まった客が七人。復讐者は客のうちのひとりなのか? 復讐の予告日クリスマス・イヴは刻一刻と近づく・・・

 ど真ん中直球勝負,じつにストレートなサスペンスです。
 21年前のクリスマス・イヴ,主人公が仲間とともに起こした事件をプロローグとして,ストーリィは大きくふたつの流れで展開していきます。ひとつの舞台はペンション「春風」。村上晶子は,客の中に潜む“復讐者”に怯えます。彼女の周囲では不可解な出来事が続発,彼女は疑心暗鬼に陥り,神経を磨り減らしていきます。21年前の事件の現場にあった「ホーム・スイート・ホーム」の曲を奏でるオルゴールが,効果的な小道具として用いられています。

 もうひとつの流れは,偶然,晶子の過去を知った元刑事・佐竹治郎を中心としています。わずかな手掛かりを元に,21年前の事件の生存者「葛西一行」のその後を追う佐竹。彼の調査によって,ペンションに逗留する客に,つぎつぎと疑惑が持ち上がってきます。
 “容疑者”は限定されていながら,誰が犯人なのか断定できない,誰が犯人であってもおかしくない,そういった宙ぶらりんの状態は,文字通り「サスペンス」であり,そこに主人公の不安や恐怖が巧みに織り交ぜられており,すこぶる効果的な展開と言えます。

 そしてクライマックス,二転三転しながら,意外な犯人が明らかにされるところもサスペンスの常道です。ちょっと唐突な感じがないわけではありませんが,「脅迫状」に隠されていた“仕掛け”が明らかにされるところなどは,なかなかおもしろかったです(「写真」の方は,「なんで,気がつかないんだ?」という気にさせられましたが・・・(^^ゞ)。
 で,その“真犯人”,最初読んだとき「をいをい,ちょっとずるいんじゃないか?」とも思ったのですが,よくよく読み返すと,たしかに作者は「嘘」はついていないですね。でもアンフェアぎりぎりといったところでしょうか。
 そこらへんの処理をもう少しスムーズにしてくれたら,構成や展開,それにともなうスピード感,スリル,緊迫感など,それこそ「サスペンスの王道」といった作品ですね。

98/12/31読了

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