今邑彩『「死霊」殺人事件』光文社文庫 1998年

 一軒の家から発見された3体の死体。被害者のひとりは,死の間際「したいがいきかえった」という言葉を残す。おまけに現場は密室状況。先に殺された女が男ふたりを殺したのか? 奇怪な様相を呈する事件に貴島刑事が挑む!

 怪奇趣味たっぷりの事件現場,どこか変な(笑)男性刑事と,「可愛いけど芯はしっかりしているのよ」系の女性刑事のコンビ,人物入れ替えによるアリバイ・トリック,そのアリバイ崩しのために訪れる北海道は函館,15年前に起きた殺人事件との絡み,なにごとかを隠している芸能界の大物俳優・・・・シチュエーションは,まさにこてこての「2時間サスペンス・ドラマ」といった感じです。ですから中頃までは,正直,少々苦痛でした。
 それでも,混迷に混迷を重ねた状況が,貴島刑事の推理によって,一転新たな構図として浮かび上がるところは,なるほど伏線もきちんと引かれていて,楽しめました。ただ「なぜ死体がベッドに入っていたのか?」という謎の真相は,いまひとつ説得力に乏しかったですね(それと貴島の気障なしゃべり方に,ちょっと鼻白んでしまいました^^;;)。

 そのため,前半あたりは,「(*o*)」あるいは「(-o-)」といった印象だったのですが,その“真相”あたりで「(~-~)」くらいかなぁ,などと思っていたわけです。ところが,貴島刑事によって真相が明かされても,まだページはずいぶんと残っている。「をを,さらに大逆転が待ち受けているのかな?」などと期待してラストへと読み進めていったのですが・・・
 う〜む・・・・まぁ,たしかにメインとなる事件と関係あるのかないのか不明だった,もうひとつの「事件」が,このラストで明らかにされるわけですが,どうしても「本当に必要だったの,この事件」といった感じが拭いきれません。
 作家さんというのは,依頼された原稿の枚数を埋めるため,いろいろとご苦労されるのかもしれませんが,どうもこの作品,ふたつの「トリック・ネタ」を強引に結びつけて,1本のストーリィに無理矢理まとめ上げている,といった印象が強く残ってしまいました。両者を結びつけるためであろう貴島刑事の行動の動機も,いまひとつあやふやでしたし・・・
 このふたつの「事件」を別の作品で描いていれば,それなりに楽しめないこともなかったのでしょうが,「竹に木を接ぐ」ように,一編に仕立て上げてしまっているという点で,トータルとしては,散漫な感じのする作品になってしまっているのではないでしょうか?

99/01/17読了

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