新世紀「謎」倶楽部『新世紀犯罪博覧会』カッパ・ノベルス 2001年

 「手紙」をテーマにしたアンソロジィです。本当は,その「手紙」についても,ある「縛り」があるのですが,それを書いてしまうとネタばれになってしまいます。「新世紀ネタ」というカテゴリがあるのかどうか知りませんが,あるとすれば,なかなか秀逸な着眼点ではないかと思います。

歌野晶午「二十一世紀の花嫁」
 狛江春奈の元に,昔つきあっていた男から,意味深長な年賀状が届いたことから…
 本アンソロジィの最初の作品だからこそできたトリックですね。そのメイン・トリックそのものも,冒頭で書いたように着眼点が良いですが,それとともに伏線の妙が光る作品に仕上がっています。
篠田真由美「もっとも重い罪は」
 10年以上も前に別れた妻宛に届いた手紙。それに秘められた意図とは…
 主人公の語り口に「なにかあるな」と思わせるところは,少々見え見えの感がありますが,そこにもうひとひねり加え,真相が明らかになったときに,ひとりの女性の哀しみが浮かび上がるラストを鮮やかですね。
谺健二「くちびるNetwork21」
 喫茶店のトイレで発見された猟奇的な刺殺死体。犯人は夫と目されるが…
 なぜ犯人が,死体を切り刻んだか? という謎は,途中で見当がつくものの,刑事が仕掛ける,アイロニカルで,犯人の苦悩の核心とも関係するトリックは,苦笑させられます。それにしても岡田有希子が飛び降り自殺してから,そんなに経つんだ…諸行無常…
二階堂黎人「人間空気」
 “人間空気”と名乗る男からの手紙は,殺人事件を予言していた…
 タイトルと手紙の文体から想像される,江戸川乱歩の有名な作品に対するオマージュ,「予言する手紙」,「密室殺人」・・・これだけのヴォリュームにネタの詰め込みすぎという印象が拭えません。かえって物語のピントをぼやけさせてしまっているような・・・それにしても読みにくい文章ですねぇ。「会社の同僚の美並由加理さんと付き合っているんだろう」なんてセリフとか…
柄刀一「滲んだ手紙」
 “あたし”に届いた3通の手紙。それには,誰も知るはずのない事故の真相が…
 う〜む・・・それなりにミス・リーディングを試みてはいるのでしょうが,すでにこの段階になれば,読者は,このアンソロジィが共有するフォーマットを十分知ってしまっているわけですから,意外性は乏しくならざるをえないでしょうねぇ。
小森健太朗「疑惑の天秤」
 英二の兄夫婦は,互いに浮気をしたと相手をなじるが…
 相変わらず文体が練れていないというか,どうも馴染めませんね,この作者。しかしストーリィ的には,互いに相矛盾する夫婦の主張,さらに現実とフィクションとの奇怪な符合と,混迷に混迷を重ねる展開はおもしろく読めました。ラストの善意による意図せざる悪意の告発もいいですね。
歌野晶午「エピローグ」
 過去を抹殺するために,郵便局に放火した男を待っていた皮肉な運命とは…
 爆笑! 個人的には,本編で採用されている考え方には賛成できませんが,たしかにそういった考えもあるわけで,そちらを採用することで,本作品そのものが持っていたはずのメイン・モチーフを鮮やかにひっくり返してしまうところは見事ですね。たしかに読み返してみると,この「真相」を示唆している部分もありますものね。いやはや,やられました。でも最後の処理は蛇足の感・・・

01/04/27読了

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