木原浩勝・中山市朗『新耳袋 第七夜』メディア・ファクトリー 2002年

 なんやかや言って,はや第7弾です。すべて読んだわけではありませんが,「第一夜」におけるスタンス・レベルをいまだキープしながら,良質の「怪談」を提供していることには,驚かされます。流行ったからと言って,へんに刊行ペースをアップさせていないことが,高品質の要因なのかもしれません。
 気に入ったエピソードについてコメントします。

 「第五話 怒り雛」は,夜中に音楽を聴いていたら,雛人形に怒られたというお話。夫と妻,両方の視点から描くことで,お話のリアリティを効果的に高めています。「第六話 置人形」「第七話 追人形」「第八話 待人形」「第九話 髪形見」は,ひとつのフランス人形をめぐる怪異譚。全体としては,やや陳腐な「人形怪談」といった観もありますが,ラストの一文が秀逸。
 「第十二話 黒綿」は,電車の窓から“目撃”した奇妙な「黒い綿あめ」の話。視覚的にショッキングであるとともに,理由は明らかにされないながら妙に納得してしまえるような話です。「第十五話 歯臼」は,いわば「旅館怪談」ですが,登場する幽霊(?)が「歯ぎしり」というのが,ユニークで,また「イヤな感じ」を醸し出しています(そういえば『あずまんが大王』中に,ひとりで寝ているときに,自分がしていない「おなら」の臭いを嗅ぐ,というエピソードがありました。これも,ある意味怖い(笑))。「第十七話 開け襖」は,フィクションの怪談でも見受けられる,比較的オーソドクスな怪異ですが,やっぱり怖いですね。降りるエレベータで,各階ごとに同じ少女が顔をのぞかせるという「第二十一話 覗き顔」も不気味です。
 「第二十八話 天」は,神棚の上にある部屋に起こる怪異,ところが神棚の天井に「天」と書いた紙を貼ったらなくなったというお話。どこか民話の「とんち話」のようでユーモラスです。また「第三十話 座席童」「第三十三話 わたり」も,民話的世界が現代に蘇ったような不可思議な手触りがあります。その伝で行けば「第三十六話 寿司提灯」は,「幻の峠茶屋」といった雰囲気もありますし,「第三十七話 板人形」も,山中綺譚を彷彿とさせ,「民話的心性」が色濃く残っているように思えます。

 とれるはずのない時計の秒針を,気がつくと手にしていたという「第五十話 持ち針」は,SF的に話を広げられそうな奇妙なエピソード。「第五十四話 塗り込め」は,「第一夜」で紹介されていた「第六十九話 地下室」に似たような手触りのお話ですが,最後の一文で苦笑させられます。「第五十六話 さとり」は,フミヒコという男からプロポーズされた女性が見つけた昔の自分の日記,そこには「ふみひこ は だめ」と書かれていた,という内容。予言といえば予言なのですが,予言したのが「過去の自分」というところがミソですね。
 自動車と同じスピードで走る(?)空き缶という「第五十九話 缶走り」は,都市伝説「走るおばあさん」の新ヴァージョンでしょうか? 「第六十六話 仕掛け柳」は,本巻にいくつか収められている「狐狸妖怪譚」ですが,その中でも柳を使役して雉を捕獲するという着想のユニークさが光っています。「第六十八話 背広返し」「第七十話 如雨露」なども,現代風の妖怪譚といったところでしょう。

 「第七十三話 会釈」は,死んだはずのおばあさんと会釈しあうというお話。怪異ながら,ほのぼのとした雰囲気があります。また「第七十七話 友食」は,死の間際にあった親しい友人の生き霊と出会うというオーソドクスな設定ですが,そこにもうひとひねり加えるところがおもしろいですね。「第八十三話 覆水」は,お盆に死んだ父親が好きだった西瓜を買った帰り,その父親の霊にであうという,これも典型的な内容ですが,西瓜を落とさないように気をつけていたがために,その父親の顔を見ることができなかったという主人公の哀しみが,上手に表わされています。

 ところで本書読了後,コンビニで『コミック新耳袋2002』(メディアファクトリー)というのを見つけ,購入しました。20人くらいのマンガ家さんが『新耳袋』のエピソードをマンガ化してますが,伊藤潤二・永久保貴一・佐伯かよのといった中堅どころの作家さんは,わりと読めるものの(とくに伊藤作品がグッド),他のあまり有名でない作家さんの作品は,正直,画と内容とのバランスがいまいちでしたね。そんな中で,ほのぼの系のエピソードを2編描いている佐々木泉という作家さんは,レトロっぽい絵柄が内容とよくマッチしていて楽しめました。ネットで検索してみたら「第1回フラッパー新人マンガ大賞」の受賞者とのこと。思わぬ収穫でした。

02/07/22読了

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