太田忠司『新宿少年探偵団』講談社文庫 1998年

 夜の新宿で謎の殺人事件が立て続けに発生! まるで野犬に食いちぎられた凄惨な死体が意味するものはいったいなに? その頃,私立聖賢学園中学の羽柴壮助,神崎謙太郎,七月響子は,同級生・夢野美香に頼まれ,彼女をスカウトした怪しげなタレント・プロダクションを訪れた。しかしそこで彼らを待っていたものは,人知れず闇の奥底に生きる者たちの戦いだった・・・。

 本書の冒頭に,
「遥かなる幻影の城主と,紡がれた夜の夢たちに捧ぐ」
とありますように,江戸川乱歩の『少年探偵団』へのオマージュに満ちあふれた作品です。独自の(歪んだ)美学に基づいて,つぎつぎと怪奇な犯罪を繰り広げる「謎の怪人」に対して,「知恵と力と勇気」でもって戦いを挑む少年少女たち――大乱歩の時代と今では状況も環境も違いますから,設定や人物造形はずいぶん違いますが,基本的な枠組みは同じであるといえましょう。
 ただ,『少年探偵団』と設定が大きく異なる点がひとつあります。それは「明智小五郎の不在」です。乱歩の「少年探偵団」はたしかに,小林少年を中心とした少年少女たちの冒険を描いていますが,その背後には明智小五郎という「大人の保護者」がいます。この作品でも,羽柴・神崎・七月・夢野らの闘いを指揮する「蘇芳」と名のる人物が登場しますが,彼は少年の姿をしています(ジャン・ポールという「大人」が登場しますが,彼は蘇芳の「助手」ですので,「保護者としての大人」とは必ずしも言えないでしょう)。また羽柴たちは,実の親たちとは距離を置いて生きる少年少女たちとして描かれています。羽柴壮助や夢野美香の親は仕事のためほとんど家に寄りつかず,神崎謙太郎の父親は,彼の得意分野であるコンピュータに理解がありません。「平凡」をモットーにする七月家で響子は浮いた存在です。
 蘇芳が本当に「少年」かどうかは,いまだ不明ではありますが,現代の「少年探偵団」にとって,「保護者としての大人」はかえって邪魔でしかないのかもしれません。「保護」と「管理」とは紙一重でしょうから。

 物語は,まぁ,そういったノスタルジックなテイストの荒唐無稽な冒険活劇という感じで,そこらへんを楽しめないことはないのですが,どうも「荒唐無稽さ」に新鮮味が感じられませんねぇ。マンガやSFX映画ですでに表現されている世界を,そのまま忠実に(?)に文章世界に置き換えているような印象があります。ストーリィ的にももうひとつひねりがほしいところです。「狩野俊介シリーズ」もそうですが,こういったジュヴナイル色豊かな作品というのは,この作者のひとつの持ち味ではあるんでしょうけど・・・。でも「狩野俊介シリーズ」も,最初はちょっと馴染めなかったですが,シリーズを読み進むうちに慣れてしまったところもありますから,このシリーズも読んでいるうちに印象が変わる可能性もあるでしょう(う〜む,主体性のない読者だ(笑))。

98/06/08読了

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