メアリ・H・クラーク『追跡のクリスマスイヴ』新潮文庫 1996年

 クリスマスイヴ,入院中の父親の見舞いにニューヨークに来た7歳の少年・ブライアンは,母親が落とした財布を持ち去る女性・コーリーを目撃。財布の中には,父親に渡すための“幸運のコイン”が入っている。たったひとりでコーリーを追う彼は,ようやく彼女のアパートに行き着くが,そこには彼女の弟で脱獄囚・ジミーが待っていた。ジミーはコーリーから金を巻き上げると,カナダへと逃亡をはかる。ブライアンを人質にして!

 メアリ・H・クラークの作品を読むのは何年ぶりでしょうか? 彼女の映像性豊かな描写とテンポよいサスペンスが好きで,『誰かが見ている』『子どもたちはどこにいる』といった初期の作品はけっこう読んでいたのですが,舞台が上流階級に偏るようになり(彼女自身が金持ちになったせいでしょうか?),どこか“気取った”雰囲気が鼻につくようになってから,いつの間にか,離れてしまいました。で,久しぶりに読んだクラークは,やはりクラークでした,良くも悪くも(笑)。

 シンプルなストーリーのストレートなサスペンスです。ブライアンを連れたジミーの逃避行,夫の入院と息子の失踪で不安にさいなまれるキャサリンとブライアンの兄・マイクル,かつてのジミー逮捕のとき,事後従犯の罪を着せられ,警察に通報することを躊躇するコーリン,脱獄事件と少年失踪事件を(不用意に)伝えるマスコミ,そしてブライアンとジミーを追う警察・・・。それら登場人物たちの行動や心理を,映像的な短いシーンでつなぎ合わせ,重ね合わせることによって,緊迫感を盛り上げるテクニックは,クラークのお得意中のお得意といえましょう(個人的にはコーリーの逡巡や苦悩を描いているシーンが好きです)。また文庫版200ページという,クラークにしてはやや短めなヴォリュームのせいもあってか,一気にラストまで読み通せます。これにもう少しアクション・シーンが加われば,ハリウッドあたりで即映画化,といったところでしょうか。とくにエンディングの派手さは,アメリカ映画好みといった感じです。だからそういった点では,安心して読めるのですが,やはりワンパターンと言えばワンパターンですし,予定調和的展開ともいえましょう。「クリスマスイヴ」という設定からして,最初から結末を予想させるようなところもありますし・・・。そこらへんが物足りなさでもあります。もうちょっと意外な展開で,読者を「あっ」と驚かせて欲しいと思うのは,欲張りでしょうか? でも,サスペンスを“安心”して読んでしまうのも変な話ですからね。

97/08/06読了

go back to "Novel's Room"