山田正紀『終末曲面』講談社 1977年

 山田正紀の初期のSF長編作品(『神狩り』『弥勒戦争』など)では,しばしば「絶対者への挑戦」がテーマに取り上げられています。そのため,作品の多くが怒りと反抗心に満ち,またその結末はペシミスティックな雰囲気が漂っています。
 本作品集も,同じようなテイストを持った初期短編7編をおさめています。

「贖罪の惑星(ほし)」
 失踪した恋人を追って,南アルプス山中の“戻らずの森”に入った“私”はそこで地球の未来を知る…
 設定そのものは,わりとよく見かけるもののようですが,贖罪のため,人間が××になってしまうという発想はなかなかおもしろいです。
「薫煙肉(ハム)のなかの鉄」
 人類は,ゆるやかな滅びに向け,「草喰い(カウ)」と「人喰い(マン)」にわかれ…
 前作と同様,独特な雰囲気をもった滅びの情景です。ただ男の身勝手なファンタジィが露骨に出ているところがちょっと白けます。
「闇よ,つどえ」
 突如勃発した若者たちの叛乱で東京は無法地帯になる。そんな若者たちの中から不思議な力を持つ者が現れ…
 この作品,SFという体裁をとっていますが,ある意味で「青春小説」なのかもしれません。狂おしく,グロテスクではありますが…
「銀の弾丸」
 “H・P・L協会”の殺し屋である“私”は,ある能役者の暗殺をはかり…
 をを! 山田正紀も“クトゥルフ神話”を書いていたんですね。といっても,ストレートな神話にしないところが,この作者らしいところなのでしょう。
「熱風」
 強盗殺人で逮捕されたギルは,突然,火星行きの宇宙飛行士の候補に選ばれ…
 いまや「ミステリ・リーグ」に完全に移籍した作者ですが,初期から,こういった作品も書いていたんですね。ハードボイルド・ミステリを思わせる作品です。ちょっと焦点がはっきりしないところもありますが…
「非情の河」
 別れた恋人から筆跡鑑定を依頼された元詩人の“私”。その筆跡はある有名な詩人のもので…
 この作品もタイム・スリップなどのSF的な設定ではありますが,やはり「青春の終わり」を描き出した作品だと思います。ラストの非情なツイストがもの悲しいです。
「終末曲面」
 小夜子は夫の殺害を決意した。2週間前,失踪し記憶喪失して戻ってきた夫を…
 夫は失踪中どこにいたのか? 喪失した記憶の内容はなに? といったミステリタッチにストーリィは進行していきます。クライマックスが,少々「解説」的になってしまったところが残念です。長編向きのネタのようにも思います。

98/03/21読了

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