ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』扶桑社ミステリー 1992年
「死者は生者とは違った必要と,違った欲望をもっている。死者はわれわれには思いもよらないほど必死なのだ」(本書「ヴードゥー・チャイルド」より)
ロックンロール・ミュージックを素材としたホラー・SF・ミステリのアンソロジィです。20編を収録。気に入った作品についてコメントします。
スティーヴン・キング「いかしたバンドのいる街で」
“ロックンロール・ヘヴン”…それが,彼ら夫婦が迷い込んだ街の名前だった…
たとえ憧れのロックンロール・スターであっても,死霊で現れて来られては,なんとも気色悪いの一言でしょう。あるいはまた,「ロックンロールは不滅だ」という言葉が,比喩としてならともかく,永遠に続くコンサートに参加しなければならなくなったら,“ヘヴン”どころか「地獄」そのものでしょう。まさに,そんな悪夢的光景を現出させた作品です。
F・ポール・ウィルスン「ボブ・ディランと,トロイ・ジョンソンと,スピード・クイーン」
創造性に乏しいミュージシャンが企んだ計画とは…
さすがにリアル・タイムではありませんが,ボブ・ディランがアコースティックからエレクトリックへと「転身」したことは,ファンにとっては,大きなショックであり,それが(作中で触れられているビートルズの登場とともに)「フォーク」の時代の終焉だったのでしょう。そんな時代に対するオマージュに満ちつつも,どこか皮肉な感じのするSF作品です。
ロナルド・ケリー「ブラッド・スエード・シューズ」
コンサートの帰り,ロックンロール・スターから声をかけられた少女は…
ロックンロールが,つねに「若い魂」を求めているのはたしかなことでしょう。そういった意味で,とある古典的なホラーのモチーフを,ロックンロールに持ち込んだ本編は,一種のメタファとして読めるのかもしれません。
グレアム・マスタートン「ヴードゥー・チャイルド」
20年前に死んだはずのジミ・ヘンドリクッスが“わたし”に頼んだこととは…
「天才」の背後に,なにかしらスーパーナチュラルな「力」が働いているという発想は,オカルト伝奇ものの「王道」と言えましょう。とくにロックの世界では,夭逝した天才が多いだけに,こういった「伝説」はたくさんあるのでしょうね。
ポール・デイル・アンダースン「春の祭典」
女の子と一緒に野外コンサートに行ったボビーは…
かつて古代世界にあったといわれている「オーギー」。それと,エレクトリックで装備したロックンロール・コンサートとの,奇妙で,それでいて,どこか納得できるマッチングです。ソフィストケートされた音楽に対するアンチとしてのロックンロールは,そんな古代の音楽が持っていた「熱狂」と結びつくのでしょう。
ブライアン・ホッジ「鎮魂歌」
飛行機事故で,メンバー全員が死亡したロック・バンド。その事故現場で,年に1回,歌声が…
強大な資本の力というのは,ときとして,それに対する批判勢力や「革命」までも取り込んでしまいます。あまりに理想的かもしれませんが,ロックの歴史というのは,そういった側面があるのかもしれません。ところで,この作品のバンドにモデルがあるのかどうか知りませんが,E.L.Pを連想しました。
R・パトリック・ゲイツ「ヘヴィ・メタル」
大音響で流されるロックに,男は苛立ちを深め…
元ネタは,おそらくダジャレなのでしょうが(笑),主人公の,穏やかで平静な語り口が,じんわりとした狂気の持つおぞましさを醸し出しています。でも,夜中の大音響,たとえ好きな楽曲でも殺意を覚えますよね^^;;
マーク・ヴァハイデン「ブートレグ」
マニアが見つけた“海賊盤”の正体とは…
ロックンロール版「骨董怪談」です。素材がレコードだけに,「音」の方に結びつくのかと思ったら,けっこうフィジカルな展開で,ちょっとびっくり。「病膏肓に至る」といったラストには苦笑させられます。
レイ・ガートン「世にも奇怪なギグ」
落ち目のロック・バンドに,プライヴェイト・ギグの依頼が舞い込み…
ギグを依頼されて行ってみるとそこは…って,「耳なし芳一」ですな(笑)(江口寿史のパロディ・ギャグを思い出しました)。
ジョン・シャーリイ「炎のテレパス」
満員のロックンロール・クラブに,有名な伝道師が現れたことから…
満員の店に点在する「不可視の人物たち」というミステリアスなオープニングと,テレビ伝道師の来店にともなう緊張感,そして起こるカタストロフ,しかしそこにひとひねり,といった緊迫感たっぷりの作品であるとともに,こういったテーマのアンソロジィの掉尾を飾るにふさわしい作品といえましょう。
04/01/15読了
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