川田弥一郎『白く長い廊下』講談社文庫 1995年

 高宗総合病院で,手術後,患者が死亡した。そして遺族は病院に補償を請求。麻酔ミスの疑いをかけられた外科医・窪島典之は,事件が殺人の可能性があると考え,薬剤師・山岸ちづるとともに,調査を始める。彼らが明らかにした真相は,思わぬ波紋を呼び・・・。

 1992年の江戸川乱歩賞受賞作だそうです。誰も触れることができなかったはずの薬剤の入手方法や,衆人環視下でのその投与方法,などなど,トリックと謎解きが前半部のメインになっていますし,また後半でも,同じような医学トリックが使われています。そういった意味で,たしかに「医学ミステリ」と呼んでもいいのかもしれませんが,どちらかというと,むしろ事件を取り巻く病院の内部事情が丁寧に描写されていて,「ミステリ風の医者の物語」という感じがしないでもありません。なにかこう,物語の中心となり,ストーリーをぐいぐいと押し進める求心力のようなものがないため,展開が平板で,メリハリがありません。事件にまつわるさまざまな謎や,それにともなうトリックが,いろいろと出てくるのですが,いずれも小粒なうえに,解明にしても「決定打」みたいなものがなく,それが解明されても,盛り上がりというかカタルシスに欠けます。さらに容疑者の高校時代の友人を探し出すために,マラソン大会へ主人公たちが出かけますが,なぜこのような設定のエピソードをいれるのかも,首をひねりますし,労組の描写も,「人物や状況を丁寧に描く」という意味があるのかもしれませんが,なんだかストーリー全体の中では,浮いているような気がしてなりません。

 「江戸川乱歩賞受賞作」の熱心な読者ではなく,最近読んだものとしては『顔に降りかかる雨』ぐらいしかありませんが,なにか傾向として,素材や状況設定のおもしろさに眼目がおかれ,ミステリとして,あるいは物語としての魅力にいまいち乏しいような気がしています。

97/04/20読了

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