我孫子武丸『死神になった少年』集英社 1997年

 「ジャンプJブックス」というこのシリーズは,コミックのノヴェラリゼーション(と,やっぱりいうのかな?)ばかりかと思っていましたが,オリジナルの小説もあるんですね。作者名に惹かれて買ってみましたが,ジュヴナイルを読むなんて,何年ぶりでしょうか。萩原和人を探偵役とするシリーズらしく,『ぼくの推理研究』という先行作品があるようですが,未読です。表題作と「少女たちの戦争」の2編が収録されています。

「死神になった少年」
 「頭の中に浮かんだ名前が,その日の新聞の死亡記事に出ているんだ。必ず…」ふとしたきっかけで知り合った森本徹也のそんな言葉を信じた「ぼく」は…
 わたしは3つの勘違いをして,この作品を読み始めました。ひとつはホラーと思っていたこと。もうひとつは,1冊丸ごと,1編の長編だと思っていたこと。そして「萩原和人」は単なる脇役だと思っていたこと。その結果,どういうことになったかというと,無防備状態でクライマックスを迎えたため,けっこう楽しめました(笑)。もし設定がわかっていて読んだら,これほど楽しめなかったでしょう。結果オーライです。だから「これはミステリだぞ」と思って読まれた方が,どういう感想を持つかは知りません(笑)。
「少女たちの戦争」
 小柄で大人しい柴田香里が,「わたし」に急に接近してきた。人とのつきあいの苦手な「わたし」になぜ? 理由のわからないうちに,彼女が自殺! そして見知らぬ女生徒からは「気にしなくていいのよ」という謎の言葉。いったい香里になにがあったのか?
 ネタばれになるので,あまりかけませんが,こういうのって,少し前にありましたね。『×××××××××』というマンガがきっかけらしく,『××』という雑誌に山ほど投稿が来たそうです(ばれたかな?)。彼女たちの考えを馬鹿げたことと嗤うことはたやすいですが,「今の自分は本当の自分ではない」という考えは,彼女たちのように「死」に直結しない形ではあっても,多くの人々が一度は持ったことのあるものではないでしょうか。
 また彼女たちの悩みを,思春期特有のよくある悩みと断ずることは可能であっても,悩んでいる本人にとって,その悩みがありふれたものであるということは,悩みそのものの重さを軽くする理由にはなりません。彼女たちもそうですし,また彼女を取り巻く人々もそうですが,ほんの少し想像力を働かせることで,うまくいくことも多いのではないかと思いました。

 正直なところ,登場人物の単純さ(あえて“純粋さ”とはいいません)は,かつて自分も持っていたものだけに,どちらもちょっと面はゆい物語でした。やっぱり年取ったせいかな(笑)。

97/05/03読了

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