太田忠司『上海香炉の謎』ノンノベル 1991年

 作家の兄・霞田志郎,マンガ家志望の妹・千鶴。兄の元に来たファン・水沢美智子から,失踪した姉・圭子の行方を探し欲しいという依頼が・・・。事情を聞くために美智子の誕生パーティに訪れた霞田兄妹は,なりゆきで水沢家に泊まることになる。が,その晩,客のひとりが殺害され・・・。

 メールをくださったKYOHさんからのご紹介で,はじめて読んだ「霞田兄妹シリーズ」第1作です。うすぼんやりしているように見えて,じつは頭の切れる兄と,直情径行,「見る前に跳べ」的な妹。対照的なキャラクタの掛け合いマンザイのような会話を織り交ぜながら,しかめっつらしいタイトルとは裏腹に,軽快なテンポで物語は進行していきます。その,マンガネタやテレビネタが散りばめられた会話は,「いかにも太田忠司やなあ」という感じです。ただ千鶴の行動パターンがちょっと鼻についてしまうのは,わたしがおじさんだからでしょうか(笑)。とくに,志郎の推理に感心している磯田警部に「(だったら自分で考えろよ,バカ)」と心の中で悪態をつく彼女に,思わず「おいおい,自分の見当はずれの推理を棚に上げるんじゃない!」とつっこんでしまいました(^^;。でも霞田兄の方のキャラは,なかなかよかったです。「傍観者としての探偵」に留まることができず,「事件の当事者のひとりである探偵」として苦悩する彼の姿は,この作者らしさがよく出ているキャラクターだなと思います。

 さて内容ですが,非常にオーソドックスな本格物,という印象で,けっこう楽しめました。姿を消した圭子はなぜ寝台特急で長崎へ行こうとしたのか? 犯人はドアから侵入したのか,窓から侵入したのか? 絞殺に用いた赤いリボンはなにを意味するのか? けっして派手な内容ではありませんが,事件をめぐって,小さな謎や矛盾,そして「落ち着きの悪さ」などが,散りばめられています。それを名探偵・志郎が推理によって明らかにしていくという,本格物の基本路線を押さえた作品だと思います。登場人物のちょっとした会話や発言,奇妙な行動を手がかりにしていくあたり,志郎の推理はなかなか小気味よいです。とくに「なぜ圭子の赤いリボンで殺したのか」の謎解きは,常道を逆手に取った感じで,おもしろく読めました。ただ難を言わえば,狩野俊介シリーズなんかでも感じるのですが,この作者,伏線の引き方が多少見え見えのところがありますねえ(^^;。

 それにしても最近,名古屋を舞台にしたミステリが多くなったような・・・。

97/07/27読了

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