黒崎緑『しゃべくり探偵の四季』東京創元社 1995年

 東淀川大学の“ボケ・ホームズ”こと保住純一と,“ツッコミ・ワトソン”こと和戸晋平とが,関西弁をしゃべくり倒しながら事件を解決していくシリーズの第2弾です。計7編がおさめられていますが,今回は,ふたりの会話形式のもののほか,そのスタイルにいろいろと趣向が凝らされています。

 フクさん@UNCHARTED SPACEから,「22,223アクセス記念(前後賞)」でいただいた5冊のミステリのうちの1冊です。フクさん,ありがとうございました(_○_)。

 最初の2編,「騒々しい幽霊」「奇妙なロック歌手」は,このシリーズの正調(笑)パターン,和戸くんと保住くんとがくだらないギャグを応酬しあいながら,事件の真相に迫るというものです。前者は和戸くんの妹夫婦の新居に出没する幽霊の謎に,また後者では手の込んだ泥棒に狙われるロック歌手の謎に,保住くんが挑みます。どちらもきちんと伏線が引かれていて,ストレートなわかりやすい本格ものです(ちょっと「わかりよすぎる」きらいもありますが・・・(^^ゞ)。
 さてつぎの「海の誘い」「高原の輝き」は一転,“ぼく”という大学生の一人称の体裁を取っています。タイトルからもわかりますように,前者は海,沖縄での珊瑚礁損壊事件が,後者では高原で起きた殺人事件が描かれます。それら行楽地で“ぼく”が保住と知り合うという形でストーリィは進行します。このような“アームチェア・ディテクティブ”ものは,多少の“妄想推理”的色彩がありますが,この2編はとくにその傾向が強いようで,それなりに伏線は引かれているとはいえ,「保住くん,なんでそこまでわかるの?」というところがあります。ちなみにこの2編には和戸くんはほとんど出てきません(そういえば本家ホームズ譚にもワトソンが出てこないエピソードもありましたよね)。
 5編目の「注文の多い理髪店」になると,和戸くんだけでなく,保住くんさえも直接には出てきません。刑事の髪を刈る理髪店の大将が,保住くんの推理を刑事に披露するという形になっています。こちらもすっきりした本格もので,途中で見当は付くものの,細やかに引かれた伏線がなかなか心憎いです。ただ,こういった理髪店にわたしは行きたくありません(笑)。
 「戸惑う婚約者」は,保住と和戸が学園祭で開いた「ギリシャ棺式占い」という,エラリィ・クイーンが生きていたら激怒しそうな(笑)模擬店に来たお客さんの悩みを聴く,という内容です。「一部」「二部」に分かれ,一部で鮮やかに悩みを解決し,二部でその種明かし,といった形式です。形式になっていますが,このような形式のミステリも,かつての“黄金時代”の作品に見られたもののように思います(ちょっと記憶あやふやですが・・・^^;;;)。
 ラストの「怪しいアルバイト」では,保住くんが「屋台の歴史における人間の形而上学的行動学」の研究のため(笑),屋台のおでん屋でアルバイトをしていて,客たち―どうやら調査業界の人のようです―の会話から,トイレから消えた女性の謎を解きます。よく見かけられるトリックではありますが,それをもうひとひねりしているあたりは楽しめます。またこの作品は,あの「五十円玉二十枚の謎」の解決案のひとつにもなっています。

 このふたりのデビュウ作『しゃべくり探偵』に比べると,2作目ということもあって,インパクトに欠けるところは致し方ないでしょうが,それを補うためでしょうか,いろいろなパターンの試みをしているところがいいですね。

98/12/06読了

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