大原まり子『戦争を演じた神々たち[全]』ハヤカワ文庫 2000年

 「神々」「女たち」「世界」「戦争」の4つのパーツに分けられた,11編の短編を収録しています。各編は,ひとつの世界を共有しており,そのことを示すアイテムやエピソードがときおり挿入されています。しかし「連作短編集」と呼ぶには,各編相互の独立性が高いように思われます。各編は,いずれもひとつの大きな「河の流れ」の中にありながらも,さながら個々に離れて浮かぶ「島」のような感じです。
 ミステリを読み慣れたものの眼からすると,それぞれの「島」の位置関係,つながりがどのようになっているのか,というあたりに,つい関心が向けられるのですが,この作品では,そのような志向―「島」同士を結びつけようとするベクトルというものが,はじめから存在していないように思います。ミステリのように,散りばめられたピースを,因果関係や時系列に再編成して構造化するというより,各エピソードをモザイク状に張り合わせることで,1枚のタペストリを織り上げているというように思えます。
 これが,SF全般に見られる志向なのか,この作者の資質に由来するものなのかは,SFに詳しくないのでわかりかねますが,前者の作品作法に馴染んだわたしからしますと,一方で「ずれ」を感じながらも,一方で新鮮味も感じられました。
 各部ごとにコメントします。

「神々」
「天使が舞い降りても」「カミの渡る星」
 「天使が・・・」は,“クリエイター”の造形が秀逸ですね。「踊り」の発生と「神」の発生のアナロジカルな比喩がなんとも楽しいです。「混沌」を分割し,分類し,分節化するものとしての「神」は,おそらくもっともベーシックな「神」の姿なのではないかと思います。「カミの・・・」は「破壊神」クデラ軍に対する反逆の物語として読みました。そういった意味で,ラストはせつないですね。

「女たち」
「宇宙で最高の美をめぐって」「楽園の想いで」「ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)」「女と犬」
 「宇宙で・・・」は,トロイ戦争の契機となったといわれる美女へレナ―そのSFヴァージョンといったところでしょうか。「ピグマリオン幻想」も入っているように思います。「楽園の・・・」に出てくる「女」は,まわりからさまざまなレッテルを貼られながらも,そのレッテルがいずれも彼女の本質を突いていない,という皮肉な,しかししばしば見られる状況を比喩的に描き出しています。
 「ラヴ・チャイルド・・・」の「元ネタ」は途中で気づき,思わず「にやり」とさせられました。その“タイガー”
の元ネタ・キャラクタの持つ「逸脱性」を巧みに換骨奪胎して,本作品のテーマに巧く結びつけています。「女と犬」は,日常的な風景から,するりとSF的状況へと移転させるところの眩暈感が好きです。

「世界」
「けだもの伯爵の物語」「異世界Dの家族の肖像」「世界でいちばん美しい男」
 「けだもの・・・」は,SF的なアイテムを用いながらも,どこか中世の説話・寓話のようなテイストを持ったエピソードです。「異世界D・・・」は,前半でのストーリィが,後半になって解体され,再構成されるところがじつに小気味よいですね。伏線も引かれていますしね。さらにその再構成された物語が,崩壊していくショッキングなラストもグッドです。本集中で一番楽しめたエピソードです。「世界で・・・」は,「世界の崩壊と再生」を描いた「神話」とも言えるような作品です。「女と犬」とリンクしながら,コントラストをなしているのでしょう。

「戦争」
「戦争の起源」「シルフィーダ・ジュリア」
 この作品の「流れ」として設定されているクデラ軍キネコキス軍との戦争の起源を描いています。「貨幣」は,その初現において神秘的・呪術的な性格を有していたといわれていますが,それをヴァーチャルな世界に置き換えることで巧みに表現しています。そんな「幻想の欲望」が宇宙に多大な悲惨をもたらすいう設定は,現実の戦争のメタファにもなっているのでしょう。

00/03/16読了

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