シャーロット・マクラウド編『聖なる夜の犯罪』ハヤカワ文庫 1990年

 タイトルからも想像されますように,“クリスマス(・イヴ)”をネタにしたミステリ・アンソロジィです。ただし1編だけ“年越しの夜(ホグマネイ)”(=大晦日)を舞台にした作品があります。なかなかそうそうたるメンバの短編15編がおさめられています。気に入った作品についてコメントします。

ピーター・ラヴゼイ「クレセント街の怪」
 クリスマス・イヴに幽霊が出るという屋敷へ調査に乗り込んだ“私”が見たものは…
 ミステリとファンタジィがほどよくブレンドされた作品です。ラストのツイストは,ちょっとアンフェアな感じがしないでもありませんが,すっきりしていて楽しめます。
ジョン・ラッツ「生きたクリスマス・ツリー」
 クリスマス・イヴ,刑務所に入っているはずの兄が訪ねてきて…
 オーソドックスなクリスマス・ストーリィといった感じの作品です。途中でネタは見当がつきますが,ハート・ウォームなラストがいいです。
メアリ・ヒギンズ・クラーク「当たりくじはどこに」
 クリスマス特別くじで200万ドルをあてたアーニー,ところがその晩つい飲み過ぎて…
 やはりこの作者,お話づくりが巧いですね。前半の描写が,ラストのツイストに上手に活かされています。
ビル・プロンジーニ「サンタクロースがやってくる」
 恋人がクリスマス・イヴにサンタクロース役を頼まれた“私”は…
 一時期,この作者の「名無しのオプシリーズ」を愛読していたわたしとしては,“私”がサンタクロース役で子ども相手に「ほうっ,ほうっ,ほうっ」と言っている図というのは,楽しいような,どこか悲しいような。ちょっとビターなラストはこの作者らしいですね。
シャーリン・マクラム「小さな敷居際の一杯」
 “年越しの夜”,空き巣に入ったルイスは奇妙な老婆に歓待され…
 浮き世離れした感じの老婆の姿が,作品にへんなおかしみを与えています。またラストがなんとも楽しい作品です。
エドワード・D・ホック「妖精コリヤダ」
 ロシア移民の教授たちが住む住宅街で,ロシア民話に出てくる妖精コリヤダが目撃され…
 さりげない一文が,推理の手がかりになっているところは小気味いいです。久しぶりに読む“サイモン・アークもの”でした。
アーロン・エルキンズ「笑うオランダ人」
 いけ好かない依頼人と絵画を探しに行った弁護士は,掘り出し物を発見するが…
 美術界を舞台にした「学芸員クリス・ノーグレンシリーズ」の作者らしい作品です。前半で,依頼人の姿がじつにいやらしく描かれているので,主人公に感情移入できました(笑)。また「なるほど,こういう手もあるんだな」と,絵画をめぐるトリックが楽しめました。
アイザック・アシモフ「ホッ! ホッ! ホッ!」
 サンタクロースが宝石売場から宝石を盗んだ?
 「ユニオンクラブシリーズ」の1編。ネタそのものは途中で推測できますが,軽妙な文体で展開するストーリィはサクサク読んでいけます。「ホッ! ホッ! ホッ!」というのはサンタクロースの決まり文句のようですね。
マーシャ・ミュラー「聖夜」
 家でした甥を捜しにサンフランシスコを彷徨う私立探偵シャロン・マッコーンは…
 クリスマス・アンソロジィの掉尾を飾る心温まる佳品です。「彼がマイクじゃなくてマイケルって呼んでもらいたかったのも知らないでしょう」というセリフに,プライド高く,人生に歩みだそうとしている少年の苦悩と気負いがよく表現されているように思います。本作品集では一番楽しめました。

98/07/26読了

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