岡嶋二人『殺人者志願』光文社文庫 1990年

 借金で首が回らなくなった“俺”菊池隆友と鳩子。そんな俺たちに,鳩子の「伯父さんの奥さんの甥」である宇田川が,借金を肩代わりしてくれると言う。もちろんタダじゃない。条件がある。それはある女を殺すこと。にわか「殺し屋」になった“俺”と鳩子は,ターゲットの隣の部屋に引っ越すのだが・・・。

 主人公たちは,指定されたターゲット・中原美由紀が住むマンションの隣室に引っ越し,さてどうやって殺そうか,というところが前半になりますが,そこらへんちょっともたつき気味のところがあります。なにより指定されたターゲット・中原美由紀を殺そうとする方法が少々不自然のように思います。アリバイをつくるためとはいえ,「なんでこんな手の込んだ,それでいて警察が調べたら一発でばれそうな方法で殺そうとするんだ?」と思ってしまいます。この手の込んだ方法が,のちの後半の展開にとって必要なものであることは間違いなのでしょうが,この方法をとった理由が,いまひとつ理解できません。
 ただ後半になると,“俺”や鳩子の思惑を裏切って,謎を秘めたまま事態がどんどん展開していきます。この手のサスペンス小説ではよく見るパターンではありますが,サクサクと読んでいけます。それでもやはり,たとえばミニ・クーパの鍵のエピソードとか,主人公たちの焦りや苛立ちを表現する場面なのでしょうが,どこか展開の仕方が鈍いところがあるように思います。これがそののちの伏線にでもなっていれば,それはそれで楽しめるのでしょうが・・・。もう少し全体的にすっきりできるのではないでしょうか? 
 妙に凝ったトリック,変に「じらし」的な表現の多い描写,主人公たちの掛け合いマンザイのような会話などなど,トータルに見てちぐはぐな印象が残る作品でした。

98/07/15読了

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