竹本健治『緑衣の牙』光文社文庫 1998年

 伝統ある名門女子高・星辰女子学園で,ひとりの女生徒が湖に落ち,死亡した。彼女が愛した緑の人形を湖畔に残して・・・。彼女の死は事故? 自殺? それとも他殺? 彼女の死を契機として学園で起こる不気味な出来事。学園を取り巻く森では謎の人物が徘徊し,彼女が死んだ場所には「罪ハ血デ贖へ」の血文字が・・・。

 『凶区の爪』『妖霧の舌』に続く「牧場智久&武藤類子シリーズ」の第3作目です(牧場くんは単独では別の作品にも出ていますが・・・)。
 街から離れた森の中に佇む女子高。古い西洋式の建築。学校につきものの「七不思議」。不安定な少女の視点で描かれた夢とも現ともつかぬ描写。少女性と悪魔性を併せ持ったような美少女たち。少女たちは,大人たちの聴くことのできない“言葉”で語り合う。そして粘液質でこってりまったりとした文章で描写される奇怪な出来事の数々・・・。森の中を彷徨う緑色の服を着た人物,血文字で書かれた不気味な文章――「罪ハ血デ贖へ」。そしてそんな学園で起こる不可能犯罪。
 う〜む,いかにもこの作者好みの舞台設定ですねぇ(笑)。ただ,ちょっとくどいというか,「前振り」が長いというか・・・。たしかに冒頭から,朝倉麻耶の死の謎が提示されますし,演劇部の舞台で起こる,事故とも作為ともつかぬ照明の落下や,血文字やら謎の徘徊者などのエピソードが挿入されるのですが,本作品のメインとなる(と思われる)不可能犯罪が起こるのは,物語がもう半分を過ぎてから。だからそれまでが少々退屈な感じが否めません。不可能犯罪のトリックも,それなりにひねってあっておもしろいのですが,前半の仰々しい盛り上げ方に比べると小粒な感じがしますね。「怪奇な現象をシンプルなトリックで解く」というのは,ミステリでしばしば見られる手法ではありますが,前半のこってり濃い口と,不可能犯罪の描写ならびにトリックのあっさり風味が,いまひとつアンバランスな感じがします。
 ただわたし自身,こういった雰囲気の作品はけっして嫌いではないので,それなりに楽しめました。

 作品自体もかなり“濃い”ですが,法月綸太郎の解説も濃いですねぇ(笑)。

98/04/28読了

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