式貴士『連想トンネル』角川文庫 1972年

 古本屋で見つけ,「おや,なつかしい」ということでさっそく購入しました。
 ところが,う〜む,人間の嗜好というのは変わるものなのでしょうか? あるいはよく言われるように,思い出は美化されるものなのかもしれません。以前(10数年前)に読んだときは,けっこう楽しめたという記憶があったのですが,今回,改めて読み返すと,即物的なグロテスクさに,正直ちょっと腰の引けるところがあります(もちろんそういった作品だけではありません)。
 「ワン・アイディアSF」といった感じの短編7編をおさめます。

「連想トンネル」
 病院で,眼底検査のため「散瞳薬」をさしたところ,真っ白に見える世界の中に,自分が連想する光景が実体化され…
 文体そのものが,どこか主人公の「連想」の羅列のようなところがあって,変な味わいのある作品です。それにしても目の前に首吊り自殺者が現れたらイヤですねぇ(笑)。オチはいまひとつ。
「見えない恋人」
 大学に入学して入ったマンション。晃はそこで女の声を聞く。彼女の名前は真砂紀,パラレル・ワールドの“塔京”に住む女性だった…
 互いに姿が見えず,テレパシィだけで愛の会話を交わすせつないラヴ・ストーリィ,と思いきや,ラストがなんともブラックです。ここらへんの「醒めた感覚」がこの作者の持ち味なのでしょう。
「ロボット変化」
 大学で演劇部に入った“僕”。学園祭で,人間がしだいにロボット化するという劇を上演したのだが…
 う〜む,なんかピンと来ない作品ですね。不気味さ,怖さを狙った作品なのかもしれませんが,そういったところもあまり感じられませんでしたし…
「首吊り三味線」
 「じゃ,今日は首吊りの話でもしましょうか…」男は,そんな風にして首吊りに関する蘊蓄を傾けるのだが…
 男が語る状況がいっさい不明のまま語られる“首吊り話”,不可解な雰囲気でストーリィは展開していきますが,しだいしだいに男自身のことが語られ始めていきます。不気味でグロテスクな内容と,軽妙な語り口とが,アンバランスで不思議な雰囲気を醸しだしています。ラストのオチはSFと呼んでいいのか,それともあくまでサイコ的なオチなのか,ちょっと戸惑います。
「文明破壊作戦」
 太陽系第三惑星に向けられ発動された「文明破壊作戦」,それは人類の「手の働き」を破壊することだった…
 たしかに本作品中で語られているように「手の働き」というのは,人類と他の動物を分け,人類の文明の基礎といえましょう。その働きを破壊することにより地球文明を崩壊に追いやるというアイデアはなかなか楽しめます。それを「殿」と「三太夫」がテレビで見る,というシチュエーションはずいぶんとブラックですね。
「猫は頭にきた」
 社長令嬢の婿候補に選ばれた“おれ”,ところが彼女の愛猫ロリーに咬まれたことから…
 『ビッグコミック別冊 ゴルゴ13』(厚い方)に挿入されている「お色気SF」のようなテイストを持っています。アイデアそのものは陳腐ですが,倒錯趣味的なエロチシズムにあふれた作品です。
「マスカレード」
 幼なじみの憂紀夫と美砂子。ふたりはテレパシィで会話することができる子どもたち。しかし成長するにつれ,しだいに疎遠となり…
 「人の心を読む(読める)」ことの哀しさ,せつなさを描いた作品です。ほかの作品と少しばかり異なるテイストの作品ですが,醒めたオチは,やはりこの作者らしいのでしょう。「プラティカル・ジョーク」あるいはA・アダムズの『いたずらの天才』を知らないので,ちょっと具体的なイメージが湧きませんでした。

98/06/18読了

go back to "Novel's Room"