エド・ゴーマン&M・H・グリーンバーグ編『プレデターズ』扶桑社ミステリー 1994年

 「とにかくそこには何かある! おまえは信じたくないだけだ!」(本書「ゴムの笑い」より)

 ホラー,SF,ミステリ短編21編を収録したアンソロジィです。タイトルの“Predator”とは「捕食者」「略奪者」の意味。やはり,某カリフォルニア州知事主演の映画『プレデター』を連想しちゃいますよね。
 気に入った作品についてコメントします。

ディーン・R・クーンツ「ハードシェル」
 フランク・ショウ刑事は,追いつめた凶悪犯を射殺するが…
 SFX的なグロテスクな映像性,刑事とモンスタとのスリルに満ちた対決などが楽しめるだけに,ラストの処理の仕方が,正直,わたし好みでなかったのが残念な作品。やや退屈ながらも,クライマクスでの刑事のセリフは,クーンツ作品の「基調」なのかもしれません。
ジョイス・ハリントン「カリグラフィー・レッスン」
 名前と容貌を変え逃れたはずの前夫から,復讐を告げる手紙が…
 「捕食者」と「被・捕食者」との設定とバランスの取り方が,この手のテーマの作品の性格を決定するのでしょう。両者の関係を二転三転させることで,テンポのよいミステリ短編に仕上げています。
ジョン・シャーリイ「ゴムの笑い」
 人類学者が研究対象に選んだホラー映画に隠されたヒミツとは…
 素材的にはわりとありがちなものではありますが,主人公がしだいにのっぴきならない状況へと追い込まれていく緊迫感がいいですね。
エドワード・ウェレン「心切り裂かれて」
 アルツハイマ病の母親を見舞いながら,男は「こうなりたくない」と心から思った…
 高齢化社会におけるグロテスクなアンチ・ユートピア的なストーリィかと思いきや,後半から意外な展開で,一風変わった趣向のサスペンス作品と仕上がっていることに驚かされます。ラストも「ややくどいかな?」と思わせるものの,鮮やかに着地させているところが巧いですね。
エドワード・D・ホック「傷跡同盟」
 イスタンブールで,絵画連続切り裂き魔の調査を依頼されたサイモンは…
 この作者のシリーズもので一番好きな「サイモン・アーク・シリーズ」です。シリーズの特徴であるオカルト・テイストが少ないのがいまひとつですが,巧みな伏線とそこからのロジカルな推理が楽しめます。
F・ポール・ウィルソン「恩讐」
 娘を殺され,復讐を誓う“わたし”に,FBIの捜査官は…
 復讐の念に取り憑かれた主人公とFBI捜査官とのやりとりが緊迫感があり,ぐいぐいとストーリィを引っ張っていきます。その上でのツイストは見事です。
エド・ナーハ「渇望」
 ほしいものはすべて所有する男が手に入れた“究極のテレビ”とは…
 ややグロテスクとはいえ,素材としては,「絵画怪談」の系譜をひくオーソドクスなものではありますが,ラストの落とし所がじつに巧く,コンパクトな短編に仕上がっています。古い洋画のファンは,思わず「にやり」とするであろう「決めセリフ」がいいですね。
クリストファー・フェイ「ファラオの冠」
 奥歯に金をかぶせてから,男は奇妙な夢を見るようになり…
 おそらく元ネタは,作中でも触れられている「豆知識」なのでしょうね。そこに,ダジャレと都市伝説を絡めながら,奇想天外なストーリィを紡ぎ出しているのが楽しめます。
ゲイリー・ブランドナー「いにしえの血」
 ホラー映画のプロモーションのため,孤島でパーティが開かれた…
 B級ホラー映画のためのパーティが,まさにB級ホラー映画的な展開をしてしまうという,開き直ったような清々しさ(笑)が感じられる作品です。
ジョン・コイン「爬虫類の習性」
 4人の男女は,アフリカの密林でキャンプをはるが…
 ホラーでもSFでもミステリでもクライム・ノベルでもない。にもかかわらず,これらのジャンルに通底する重苦しくねっとりした雰囲気は,アフリカを舞台にしているからだけではないでしょう。

05/01/03読了

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