榊原史保美『ペルソナ』双葉社 1997年

 ある夜,公園で殺された男の顔には,能面にも似た不可思議な面がかぶせられていた。その面は,滋賀県の山中,独自の信仰と文化をもち,排他的な生活を送る「雲居里」に伝わる「神面」であった。殺人事件を追う巽大介刑事の前につぎつぎと現れる雲居里の関係者たち。そして元民政党副幹事長で今でも政界に隠然たる力を持つ仁礼高三郎の影。「神面」をめぐって,権力欲にとりつかれた人々の思惑と,閉鎖的な村落に伝わる因習,そして愛憎が渦巻く中,物語は悲劇へと向けて突き進んでいく。

 うううむ。導入部がなにやら不気味で謎めいていておもしろそうなんで,そこに惹かれて読んでみたんですが・・・。まずあまりに会話が多い。それも日常会話と言うより,ひたすら物語を進めさせるための会話といった感じで,だからどうしても「説明的セリフ」になってしまいます。それが数ページにわたって続くときもあり,読んでいて退屈してしまいます。あるいはみょうにヒステリックな,他人を非難したり,無防備に心情を吐露したりするようなセリフであったりして,安物の青春ドラマを見せられているような気がします。

 そして,のたりのたりと隠微な雰囲気で物語が進行していったかと思うと,とつぜんの戦闘シーン。あまりに唐突で,おまけに描き方が大雑把すぎませんかねえ。なんか,ストーリー展開に苦慮したマンガ家が,ページ埋めのために「えいやっ」で無意味な戦闘シーンを描いているみたいです。で,最後のクライマックス。なんでこんなところでこの人が出てくるの? と,思わず首を傾げたくなります。そりゃあ,ストーリーを無視して,単にワンシーンとしてみれば,それなりに「絵」にはなるんでしょうが,ちょっと必然性がないんではないでしょうか? 「絵」としても陳腐のように思えますし・・・。

 それから全編に漂うホモセクシュアルな雰囲気。それもリアルなホモセクシュアルというより,美少年,美青年,麗しきおじさまたちが入れ替わり立ち替わり登場する,理念化あるいは理想化されたホモセクシュアルです。『J○N○』とか「耽美小説」とかの世界・・・,こういうのって,人それぞれですから,好きな人は好きなんでしょうが,個人的にはちょっと苦手な分野です。

 もうちょっと,本作品の謎の核心である「雲居里」について書き込んでほしかったですね。最後の最後まで,「雲居里」がうまくイメージできませんでした。

97/03/29読了

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