山村正夫『鬼ヶ島地獄絵殺人』角川文庫 1987年

 「××の殺人」とか,「○○殺人事件」とかいった,シンプルでストレートなタイトルのミステリも嫌いではありませんが,わたしはどうも怪奇趣味もけっこう強いようで,おどろおどろしいタイトルのものに惹かれる傾向があるようです。横溝正史や江戸川乱歩,夢野久作,赤江瀑といった作家たちの作品はもちろん,そのタイトルにも強い愛着を感じます。で,本作品ですが,「鬼」「地獄」「殺人」と,おどろおどろしい言葉が連なっています。山村作品は,以前,『湯殿山麓呪い村』の映画版を見て,そのわけのわからない結末に,いまいち手を出しかねていたのですが,古本屋で,おどろおどろしいタイトルに惹かれ,買って読んでみました。

 光華学園大学史学科の助手・滝連太郎は,ぬうぼうとした体躯に似合わず,警察が持て余す難事件に推理の冴えを見せる名探偵。彼が,同大学の女子大生・武見香代子とともに出くわす事件を描いた6編よりなる短編集です。いずれも,舞台設定がおどろおどろしい(しつこい!)。能登に伝わる,なまはげとよく似た奇習あまめはげの夜に起きた密室殺人やら(「あまめはげ」),『悪魔の手鞠唄』みたいなおばあさんが出てきて,直後に起こる殺人事件やら(「暗い唄声」),そのものずばり「丑の刻参り」やら,100年前の死鑞化した死体が密室から盗まれる事件やら(「御先祖様誘拐」),死んだ母親の幽霊から埋蔵金のありかを告げられた男が密室状況で殺される事件やら(「幽霊埋蔵金」),『獄門島』みたいな瀬戸内海に浮かぶ孤島で起こる,地獄絵がらみの殺人事件やら(表題作),もうとにかく「これでもか,これでもか」といった感じで,奇怪で不気味な事件が目白押しです。ただ舞台設定はやたらと大仰なのですが,どうもトリックの方が,小粒というか,わざわざ「名探偵」のご出馬を仰がなくても解決できるんじゃないかい?というか(警察があまりに無能です)。登場人物が「奇怪だ」とか「難解だ」とかいうわりには,ちょっとお粗末な感じがします。舞台が大仰なだけに,落差がよけい目立ってしまうこともあるようです。やっぱり,これだけおどろおどろしい(これが最後です)タイトルと舞台を作るんだったら,それに見合った大仕掛けな,あるいは手の込んだトリックがほしいな,と思ってしまうのが情というものでしょう。

 それと内容と関係ないのですが,仏教系の大学の史学科助手ということで,地獄絵やら丑の刻参りやたらに詳しい主人公が,表題作の中で,「両墓制」(文中で「両墓性」となっているのは間違いです)のことも知らないというのは,リアリティがないですよ。

97/03/22読了

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