清水義範・西原理恵子『おもしろくても理科』講談社文庫 1998年

 小説やエッセイ,詩などの「挿し絵」や「カット」というのは,ふつう,文章のワンシーンや内容,雰囲気といったものを描いています。ミステリなんかでよく見られる建物や部屋の配置図なども,ちょっと性格が違うかも知れませんが,似たようなものでしょう。まぁ,なかには文章力が不十分で,挿し絵を見てはじめて場面がわかる,なんて作家さんもいないわけではないでしょうが,基本的には,文章が「主」で,挿し絵は「従」なわけです。
 でもって,「従」である挿し絵が,「主」である文章を無視したり,ないがしろにするようなことは,滅多にありません。ましてや文章を書いている作家さんを,おちょくったり,こけにしたり,ぼろかすにけなすようなことは,まずありません。
 しかし,なにごとにも例外というのはあるもので,この本は,そんな例外のひとつです(笑)。

 文章は清水義範,絵は西原理恵子,通称サイバラであります。本文の趣旨は,要するに理科や科学のおもしろさを,文系人間にもわかるように解説しましょう,ということです(だと思います)。話題は,慣性の法則や小学校の理科の実験,海辺の生き物,地球の歴史,脳のしくみなどなど,多岐にわたります。
 で,最初の「慣性の法則」の1ページ目に,サイバラの挿し絵があります。その絵の中でサイバラは,
「はい,みなさん,うっとーしい教養コラムです。いそがしいひとは,ちゃっちゃととばしてよんでください」
などと,初っぱなから全開バリバリ(死語)です(笑)。ともかく,サイバラの挿し絵は,内容とはまったく関係なく(関係ありそうなのもありますが),もう言いたい放題。清水義範が「王水(濃塩酸と濃硫酸を混ぜたもの。なんでも溶かす)」について書いた「理科の実験」の挿し絵には,
「なにいってんだか。王水がいちばんえらいとか。この世でいちばんえらいのは,女王様のおみず」
と書いた上に,
「おわったなー,清水ー。キミのコーショーな文章が,このカットひとつで」
と容赦ありません。さらに伊集院静が『受け月』で直木賞をとった年,どうやら清水義範の『柏木誠治の生活』は候補に挙がりつつ,ダメだったようなのですが,「××が東京ドームだったら」の表紙には,
直木賞落選ほやほや作家 清水義範君
とでかでかと書き,傷口に塩をすり込むような仕打ちです。
 もうとにかく,傍若無人の怖いもの知らず,爆笑の連続です。

 じつのところ,この本,清水作品としては,知識の羅列が多い感じで,あまりおもしろくなかったのですが,このサイバラの挿し絵でかなり評価が高くなっています。ということで,顔マークは(^o^)です。

98/03/19読了

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