梶尾真治『OKAGE』ハヤカワ文庫 1999年

 突如姿を消した息子・兆(きざし)を必死に探し求める国広章子。だが,“おかげ現象”と呼ばれる子どもの失踪は全世界的な規模で起こっていたのだ! 子どもたちにいったい何が起きたのか? 彼らを導く“幻獣”とは? そして世界は巨大な変革を迎えようとしていた・・・

 不可思議でミステリアスなタイトルで,どういう意味だろうと思っていましたが,江戸時代末期の熱狂的な伊勢参り,「御陰参り」に由来しているんですね。「子どもの大量失踪」といえば,作中でも触れられているように「ハーメルンの笛吹き男」が思い浮かびますが,あえてこういったタイトルをつけたところは,言葉は変ですが,「土着的」という感じがして,個人的には好きです。

 さて物語は,あるひとりの少年の失踪を描くところから始まります。そして熊本県下(こういった大規模な設定の作品で熊本を舞台にしているところはめずらしいですね),日本全国,全世界で膨大な数の子どもたちが姿を消していることが徐々に明らかにされていきます。また,その子どもたちの失踪が,彼らのみが見ることのできる“幻獣”たちによって導かれていることが明らかにされます。幻獣たちとともに「いずこか」へ歩を進める彼らの姿はけなげで,心温まるものがあります。さらに子どもたちを追う大人たち―国広章子,貞永,源田ら―。

 「なぜ,どこへ,子どもたちは行こうとしているのか?」という謎を中心に据えながら,いずこかへ向かう子どもたち,それを追う大人たちを交互に描くことで,ストーリィをぐいぐいと展開させていくところは,サクサク読んでいけます。また彼らの追走劇に「式神男」という,子どもたちに対抗するキャラクタを設定することで,ストーリィに緊迫感を与えています。謎やその解決を小出しにしながらのミステリ・タッチの展開は巧いです。

 後半にはいると,子どもたち失踪の理由が明らかにされ,この物語の全体景が浮上してきます。ただその「理屈づけ」が少々バタバタした感じがあって,説明調になっているところが残念です。子どもたちと「式神男」との対立が人類の深層意識での対立に結びつけるところは,おもしろいですね。またクライマックスでの,嵐吹き荒れる山中のバトル・シーンも,さながらSFX映画的で楽しいものです(映画的なご都合主義も見られますが(笑))。
 そしてエンディング・・・長大な物語の終わりとしてはちょっと物足りない感じもします。というか,エンディングというより,新たなる物語のオープニングのような感じですね。巨大な変革を経た新たな地球で始まる,より壮大な物語の・・・

 この作品は,なにやら毀誉褒貶さまざまなあるそうですが,ラストでの含みを持たせたエンディングに,一編の完結した作品としては不満は残るものの,展開そのものはスピーディで読みやすく,トータルとしてはそれなりに楽しめる作品でした。

98/05/17読了

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