出久根達郎『踊るひと』講談社文庫 1997年

 7編よりなる短編集です。いずれの作品も「語り口」が凝っていて,独特の雰囲気をもっています。また内容も,ホラー風,サスペンス風,奇妙な味風などなど,ヴァラエティに富んでいます。ただ文体は好き嫌いがあるかもしれません。この作者の作品は初見でしたが,直木賞を受賞した有名な方だったんですね(^^;;。
 気に入った作品にコメントします。

「踊るひと」
 半年の取材から帰宅すると,女子高時代の友人から奇妙な手紙が届いており…
 死んだ姉の夫をめぐる秘密や謎,疑惑が,半年間に届けられた手紙でしだいに明らかにされていきます。その展開は,ホラー風のテイストをまじえながら,サスペンスフルです。
 この作者は古書店を経営しているとのこと,こういった往復書簡集が持ち込まれることってけっこう多いのでしょうね。
「くっつく」
 ノンコとセッコの交換日記。ところが,誰かがそれを盗み見しているらしい…
 日記を盗み見しているのは誰か? 書き手は誰か? その目的は? といった感じの,折原一の叙述ミステリを思わせる作品です。途中何度か触れられている“接着魔”のエピソードが,ラストで効果的に使われています。そして伏線の効いた,少女の心理を巧く表現した最後の着地も(多少読める部分はありますが)いいですね。
「花粉症」
 映画の撮影のため,不動産業者と邸宅を訪れた“私”は…
 登場人物の設定が,物語の進行とともに,二転三転していきます。狸と狐の化かし合いを見ているような,楽しい作品です。
「夜の民話」
 山中に住む富豪から,襖の絵描きを頼まれた絵師は,美しい少女と出会い…
 少々惚けた老婆が語る“民話”という体裁の作品です。読点(,)を排し,すべて句点(。)で文章をつなげるという試みが,不思議なリズムを生み出しています(ちょっと読みづらいところもありますが(笑))。。怪談仕立ての作品ではありますが,ひとりの少女をめぐる,男たちのぎらぎらとした欲望がおぞましいです。
「秘密の場所」
 中学生の頃,ぼくらの住む村に放火魔が逃げてきた…
 思い出を語る話し手が,するりするり代わっていき,放火魔をめぐる“ぼくら”の事件の真相が明らかにされていきます。誰もが持っていたであろう中学時代の“生意気さ”がうまく表現されているとともに,ミステリとしても,コンパクトにまとまった佳品ではないかと思います。

98/02/11読了

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