倉知淳『日曜の夜は出たくない』創元推理文庫 1998年

 小柄な身体に黒いだぶだぶの上着を羽織った,ふっさりとした前髪を眉の下まで垂らした,仔猫みたいなまん丸い眼をした童顔で,性格はなんともつかみようのない“猫丸先輩”を探偵役とした作品7(+2)編よりなる連作短編集です。
 基本的には,状況証拠から積み上げる“妄想推理”なのですが,1編1編の設定や文体,構成が凝っていて,飽きがきません。それと,ラストにつけられた2編「誰にも解析できないであろうメッセージ」「蛇足―あるいは真夜中の電話」が,なかなかの“くせもの”です。ネタばれになるのであまり書けませんが,一言でいえば,この作者は,あの『星降り山荘の殺人』を書いた作家さんだということです(笑)。ただちょっと強引すぎないかなぁ…
 一応,気に入った作品のみコメントしますが,あくまで本作品集は「連作短編集」ですので,こういった感想文の書き方も,あまり意味がないんですが… そこらへん,お含みおきを・・・・。

「約束」
 おウチに帰りたくない麻由ちゃんは,ある夕方,公園で「おじちゃん」と出会った。おじちゃんもおウチに帰りたくないという…
 うう,好きですねぇ,こういう雰囲気の作品。なんといっても,主人公の“麻由”がいいです(といっても,わたしはけっしてロ○コ○ではありません(笑))。単なる“ほのぼの系”かと思いきや,きちんと本格してもいます。猫丸先輩の推理が,妄想的とはいえ,小気味よく展開しています。あれが伏線になるとは・・・。本作品集で一番楽しめました。
海に棲む河童
 不思議な伝説と同じように,孤島に流れ着いた猫丸先輩ご一行は…
 ミステリとしては,あまりに妄想的で,いまいち楽しめませんでしたが,冒頭に出てくる方言まるだしの“昔話”と,それを読みやすくしたと称する標準語訳に笑ってしまいました。注釈が多すぎてかえって読みにくい!(笑)。ありますよね,こういう翻訳物。
「一六三人の目撃者」
 満杯の小劇場。舞台で役者が毒殺された! だが,毒の入った瓶に手を触れることは誰もできず…
 衆人環視下での不可能犯罪を描いています。トリックが気に入りました。またそのトリックを成り立たせるための,さらりさらりとひかれた伏線(とくに心理的な伏線)もいいです。
「日曜の夜は出たくない」
 あの人が人殺しだと疑い始めたのはいつの頃だったろう…
 恋人の“不審な行動”に疑惑をつのらせる“私”の姿が,なかなか緊迫感があります。「オチ」というか「結末」はなんとなく見当がつきますが,そこで明かされる伏線が鮮やかです。何度も繰り返し描写されているのに,気づきませんでした(笑)。

98/01/31読了

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