我孫子武丸『人形はライブハウスで推理する』講談社ノベルス 2001年

 久しぶりの「鞠小路鞠夫シリーズ」です。6編の短編が収録されています。各編の謎解きとともに,主人公妹尾睦月と腹話術師朝永嘉夫との「恋の行方」も,シリーズとしての楽しみのひとつとなっています。
 ところで巻末で,作者と対談しているいっこく堂がメジャーになったとき,本シリーズを連想したミステリ・ファンも多いのではないでしょうか?

「人形はライブハウスで推理する」
 突然,上京してきた睦月の弟・葉月。彼が立ち寄ったライブハウスで殺人事件が発生。葉月はその容疑者にされるが…
 こんなことを書くと作者に対して失礼なんですが,読み終わってみると,むちゃくちゃ単純なトリックなんですよね。それこそ子ども向けの「推理クイズ」に出てきそうな感じ・・・しかしそれを上手に錯覚させるシチュエーションの設定こそに,作者のプロとしての技量があるのでしょう。
「ママは空に消える」
 マンガ化作品で既読。感想文はこちら
「ゲーム好きの殺人」
 ゲームの最中に殺された大学生。現場からはなぜかゲームソフトだけが盗まれており…
 う〜む・・・トリックが小粒な上に,やや冗長な感じのするエピソードですね。シリーズものの宿命的な欠点なのかなぁ・・・
「人形は楽屋で推理する」
 園児たちを地元の公民会に連れてきた睦月。ところが園児のひとりが密室状態の公民館から姿を消し…
 この作品のトリックも小粒なのですが,前作のトリックが「知らないとわからない系」であるのに対し,こちらは,いつでも誰でも陥るかもしれない錯覚を利用している点で,個人的にははるかに好みに合いますね。
「腹話術師志願」
 多少人気が出てきた嘉夫の元に,調子だけはいい青年が弟子として押し掛けてきて…
 本集中,一番凝ったトリックを使っている作品です。果たして成り立つかどうか,やや不安が残るところもありますが,「あるもの」の特性を巧みに利用している点,着眼点の良さが楽しめます。
「夏の記憶」
 小学校のとき,喧嘩した相手は睦月を嫌ってしまったのか…
 「日常の謎」系のアームチェアディテクティブ・スタイルの作品です。謎解きと,彼らがいるシチュエーションとが結びつくラストは,じつに秀逸。爽快な後味もグッドです。

01/08/29読了

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