新津きよみ『二重証言』ハルキ文庫 1998年

 27年ぶりに中学の同窓会に出席した咲子。再会したイラストレータの友人・待井を訪れた彼女は,そこで他殺体となった彼を発見する。警察に通報することなく逃げ出した彼女の元に届いた一通の手紙。彼女に偽りのアリバイをつくるかのような内容の手紙を不審に思う彼女だったが,刑事には手紙通りに嘘をついてしまう。それがすべての始まりだった・・・。

 嘘の上に嘘を重ね,また疑心暗鬼にかられ,しだいに自縄自縛に陥る主人公,背後に見え隠れする“同級生”の悪意,二転三転する事件の真相などなど,ストーリィの展開はスピード感があって,一気に読める作品ではあります。またネタは,この作者お得意の“主婦もの”ということで,安定感もあり,そこそこに楽しめました。
 ただねぇ,相変わらず「説明的セリフ」が多いんですよねぇ・・・。もう,登場人物がとうとうと語るのです。それもまるで台本でもあるかのように理路整然と,状況を語り,動機を語るのです。
 そりゃたしかに,小説の中での「会話」が,けっしてわたしたちが普段なにげなく話している「会話」とはまったく異質なものであることは間違いありませんし,とくにミステリの場合,真相やらトリックが明らかにされるシーンの会話は,どうしても「説明的」になってしまうのは,仕方がないところもあるでしょう。
 しかし,たとえば回想シーンでは,途中に三人称的な描写を入れて,メリハリをつけるとか,聞き手の相づちやら質問をはさんで,会話らしくするとか,そんな配慮があってもいいのではないでしょうか? ひとりのセリフの中に「『』」までつけて,別の人が語ったセリフを挿入するなんて,なんだか古めかしい舞台の劇を見ているような,そんな気分にさせられます。
 このような描き方は,もうこの作者のスタイルになってしまったのでしょうか?

98/11/26読了

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