東野圭吾『虹を操る少年』講談社文庫 1997年

 天才的な頭脳と,驚異的な色彩識別能力を持つ白河光瑠(みつる)。高校生の彼がはじめた“光楽”は,多くの若者を魅了していった。しかし彼をめぐって渦巻くさまざまな陰謀。彼らは光瑠をどうしようというのか? そして光瑠の真の意図は?

 主人公はなかなかミステリアスですし,光瑠の“光楽”に魅せられ,彼の活動を支援する若者たちも魅力的です。展開もスピーディですので,サクサク読める作品ではあります。でもねえ,正直なところ「なんだかなあ」という読後感です。“進化”とか“開祖”とか,そして主人公をめぐる太古から連綿と続く陰謀とか,ここまで話を大きくするんだったら,もう少し書き込んで欲しかったですね。はっきり言って底の浅い伝奇小説みたいです。最後に出てくる“会長”も,いまいち迫力不足ですし,“マスクド・バンダリズム”を結成させた理由というのも,説得力に欠けます。敵方の正体も,ちょっと都合良すぎませんか? “光楽”というネタで書き始めたけれど,うまい具合に話を収束させることができずに,形ばかり大きくして強引に終わらせたような印象があります(この言い方は酷でしょうか?)。

 東野作品って,けっこう楽しめるものが多いのですが,たまに「大はずれ」な作品(もちろん,「わたしにとって」なのでしょうが)もあるんですよね。

97/08/01読了

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