大沢在昌『眠りの家』角川文庫 1993年

 6編よりなる短編集です。この作者の作品はあまり読んでいませんが,そんなわたしでも,「へえ,こんな作品も書くんだ」と思わせる短編が多く含まれています。ただ,おもしろい作品もありますが,どこか中途半端な感じがしてしまう作品が目についてしまいます。全体としては少々もの足りませんでした。

「一瞬の街」
 穏やかで,平凡を絵に描いたような兄。だが彼は父親から不思議な力を受け継いでおり…
 「超能力もの」なのでしょうねぇ。たしかにハードボイルド的なラストではありますが,「え,これで終わりなの?」という感じです。
「ゆきどまりの女」
 ある女を殺すよう依頼された男は,ゆきどまりの家に住むその女を訪ねるが…
 話そのものはシンプルですが,ラストにツイストを効かせた,緊張感に満ちた作品です。伏線もきちんとはってあります。ただトリックがちょっと気にかかりました。××の女性に通じるのでしょうか?
「人喰い」
 謎の女・アンによってグアムへ連れてこられた英二。彼はそこであることを依頼され…
 ギラギラとした暗い情熱に溢れたクライム・ノベルです。一見,雰囲気づくりにしか見えなかった描写が伏線となった,アイロニカルなオチがなかなかいいです。ホール&オーツ「マンイーター」はわたしも好きでした。
「六本木怪談」
 ハードボイルド作家の“僕”のところに,あるディスコに幽霊が出るという電話は,古い友人からかかってきて…
 タイトル通り,正調怪談といったところです。前半の偽悪めいた文章がちょっと気になります。う〜む,なんだかなぁ・・・。
「夜を突っ走れ」
 真夜中のドライブでひろったひとりの女。彼女の周囲には不気味な噂が流れ…
 「魔性の女もの」風ホラーでしょうか。単純なストーリーです。ひっぱったわりには,ラストが唐突です。まぁ,ほっとはしますが…
「眠りの家」
 磯の先端に建つ奇妙な円筒形の“家”。潤木と吉沢はその正体を探ろうとするが…
 この作品も「一瞬の街」と似たような手触りのような作品です。話がでかいわりには,尻つぼみという感じです。それとラスト直前に明かされる真相が唐突すぎて,「おいおい,そんなんありか?」と思ってしまいました。

97/12/01読了

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