田中啓文『ネコノメノヨウニ・・・』集英社スーパーダッシュ文庫 2001年
ある事件をきっかけに,つぎつぎと猫を殺す珠子。殺された猫の呪いを受け,50回に渡って黒猫として転生を繰り返す彼女は見る・・・さまざまな生と死を・・・そして怪異を・・・
というオープニング・エピソード「猫の目のように・・・」ではじまる連作短編集ではありますが,この設定自体は,さほど各編の内容に影響を与えているわけではありません。昭和初期から24世紀に渡る各エピソードに「黒猫」が出てくるだけ,といった程度です(そのことは抱腹絶倒な「あとがき」でも,作者自身がしっかりと書いています(笑))。むしろ独立した短編集と言った方が適切でしょうね。
「二度目の降霊術 1932年」
降霊実験会の最中に殺された倫子の霊を呼び出すため,二度目の降霊実験会が開かれ…・
オカルトとミステリとが交錯した作品です。やや両者の関係が「木に竹を接いだよう」な印象が強いですね。それと凶器のペーパーナイフが途中で彫刻刀に変わってしまっているのも,興を削いでいます。もうちょっと文章に対する心配りがほしいところです。
「火盗り蛾 1945年」
火の神を祀る村に疎開してきた少年は,昆虫に深い造詣を持っていたが…
伝奇的なテイストにあふれたストーリィが,SF的科学へと意想外に結びついていくところがおもしろいですね。ユニークな着想を,戦争末期という舞台設定と上手に絡み合わせています。本集中,一番楽しめました。
「影の病 1973年」
北家に伝わる怪異な伝承…当主が自分の分身を目にしたとき,「影の病」に取り憑かれ死ぬという…
「ドッペルゲンガ・ネタ」です。10日後に死ぬとされた少年の苦悶をじわじわと描いているところはおもしろいのですが,クライマクスで,とあるSF的小道具が出てくるのは,あまりに唐突な感が免れません。
「滅びの夏 1999年」
「あなたを助けてあげる」…“俺”の頭の中に聞こえてきた声は,別れたばかりの恋人のものだった…
「多次元宇宙」について,妙に詳しい解説があるのは,ジュヴナイルだからかな,と思っていたのですが,ラストで明かされる「真相」−ほんのわずかな違いで大きく変わる世界−のための伏線と考えれば納得できます。
「切れた弦 2021年」
イギリス留学を目指す絃のために,由美は力の限りサポートするのだが…
物語の構造は,なんだか少女マンガの定型を連想させる陳腐なものですが,各所に挿入された「小技」が楽しめる作品ですね。なぜ絃は路子にあることを頼んだのか?とか,蜘蛛とヴァイオリンと目の手術との意外な結びつきとか・・・
「卵 2312年」
ダンサーである恋人の足を治すため,彼女は「卵」とともに宇宙へ旅立った…
主人公が出発する前に取り交わす会話に,「仕事」の背後にある悪意の存在が匂わされるものの,あまりに酷く,後味の悪いエンディングですね。カタルシスがほしい・・・
01/09/07読了
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