小沢淳『もういない天使の黄昏』講談社ノベルズ 1996年

 ビルから転落死した高校時代の友人・藤井和彦の葬式のあった日,「ぼく」は雑誌のなかに奇妙なメッセージを見つける。それに,妙に心惹かれ,浅草を訪れた「ぼく」の周囲には,突然,奇妙な連中がうろつき始める。「天使同盟」,「世界救済委員会」,「落書き回収屋」,オカマの都美子と氷美子,謎の人物・八代安見・・・。そして彼らの間で囁かれる救世主・3人のユウコ。藤井が生前,「天使同盟」に関わっていたことを知った「ぼく」は,友人・高橋悟と島村裕子とともに,藤井の死の真相を探るべく,不思議なメッセージに導かれつつ,初夏の東京を彷徨い始める・・・。

 なんとも奇妙な雰囲気を持った物語です。あとがきで,作中に出てくる「メッセージ遊び」というのは,作者が考えついたことだと書いています。しかし,なぜか「あってもおかしくないな」というようなリアリティを感じてしまいます。それはおそらく,人々の間で囁かれる「噂」や「都市伝説」,「学校怪談」と似たような手触りがあるからかもしれません。たしかにそれは「遊び」なのかもしれませんが,日々の生活にある「現実」「日常」とは異なる,「誰も知らないけれど,わたし(たち)だけが知っている別の秘密の世界」をかいま見せてくれる幻想なのかもしれません。「ここ」ではない「どこか」,「いま」ではない「いつか」,「わたし」ではない「だれか」・・・,そういったものに対する嗜好は,きっと誰にでもあるでしょうし,小説やコミック,テレビや映画といった「物語」は,そういったものの代替物のひとつなのでしょう。そして作中で描かれる「メッセージ遊び」に熱中する人々もまた,「現実」にしっかり根ざしながらも,そんな「別の秘密の世界」の存在を,心のどこかで渇望する普通の人々なのでしょう。だからこそ,この奇妙で,どこか非現実的な雰囲気を持つ作品が,ある種のリアリティをもっているのかもしれません。

 「新感覚ミステリ」と銘打ってありますが,ミステリとして読むよりも,この作品自身,ひとつの「都市伝説」として読んだ方が,おもしろいのではないかと思います。「ビルから飛び降りた高校生がいたんだって,そのかたわらにね,天使が立っていたんだってさ。ほんとだよ,友達の友達がほんとうに見たんだから」といった具合に・・・。「ミステリ好きのわたし」にとっては,ちょっともの足りませんが,「都市伝説好きのわたし」にとって,なかなか楽しめた作品でした。

97/04/05読了

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