北村薫『水に眠る』文春文庫 1997年

 ミステリ色の薄い短編10編をおさめた作品集です。それにしても,文章力に定評のあるミステリ作家(たとえば連城三紀彦とか泡坂妻夫とか阿刀田高とか)は,なんで「恋愛もの」や「男女の機微もの」みたいのを書くようになるのでしょうか?(もちろん文章力のある作家が全部が全部ではないと思いますが) どうも根が野暮天で,男女の機微にはとんと疎いわたしは,この手の作品が苦手で,個人的には,少々もの足りませんでした。

 なおこの作品集には「贅沢な解説」と題して,各短編ならびに全体について,有栖川有栖,若竹七海,加納朋子,山口雅也らによる計11本の(短めの)解説がついています。

「恋愛小説」
 タイトルからするとロマンチックな内容なのかもしれませんが,わたしにはなぜか不気味に感じられました(やっぱり野暮天?)。それにしても「上司が点検を兼ねて(カメラのである,美也子のではない)」という文章,やっぱりこの作者も「おぢさん」なんだなと思いました(笑)。
「水に眠る」
 ううむ,よくわかりません。風呂の中で眠くなることはよくありますが・・・。ところで“西田さん”みたいなしゃべり方する人って,いるんでしょうか?
「植物採集」
 最後まで読んで,ようやくタイトルの意味が分かりました。なかなか意味深ですね。「植物」というのもひとつのメタファなのでしょう。せつない物語ではあります。
「くらげ」
 この作者も,ウォークマンや携帯電話が普及し始めた頃,きっと「ぞろり」としたいやな感じを受けたんでしょうね。
「かとりせんこうはなび」
 これもなんだかよくわからない作品でした。自然に介入したことに対する罪悪感? だったら「なにを今さら」という感じがしないでもありません。
「矢が三つ」
 設定はSFっぽくひねってありますが,展開のさせ方がいかにもこの作者らしいな,という印象を受けました。最後のオチがとくに。『スキップ』や『ターン』もこんな雰囲気なのかな?(ともに未読)
「はるか」
 本屋にアルバイトに来た女子高生の話。日常風景のスケッチのような作品です。
「弟」
 途中でオチは見当がつきますが,どこか粘液質な文章で,ぐいぐいとラストまで引っ張られます。
「ものがたり」
 ラストの主人公の言葉「いいかい。いえないんだよ。それで十分じゃないか」というセリフは,ひとつの「ものがたり」の終わり? それとも新しい「ものがたり」の始まり? 本作品集では一番楽しめました。
「かすかに痛い」
 壊れた眼鏡と頭痛が,男女間の心のすれ違いやらなにやらを象徴しているんでしょう,たぶん・・・。

97/10/18読了

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