江坂遊『短い夜の出来事』講談社文庫 1997年

 内容にはいる前に一言。本書には「奇妙で愉快なショートショート集」という副題がついています。学習雑誌の付録というか,4コママンガ雑誌のキャッチコピーというか(「ワハハ! 春を呼ぶ大爆笑号」みたいな),思わず赤面してしまうような垢抜けない副題ですね。なんとかなりませんかねえ。

 「ショートショート」というのは,「ミステリ」や「ホラー」あるいは「SF」とかいった「内容」による分類ではなく,「形式」による分類(ギョーカイでは原稿用紙20枚程度のものだそうです)なのだな,という,当たり前といえば当たり前のことを,改めて感じました。わたしにとって「ショートショート」というと,やはり星新一という巨大な存在のせいでしょうか,即「SFショートショート」というイメージがありますが,本作品集は,前作『あやしい遊園地』につづいて,じつに多彩な内容のショートショートがてんこ盛りで,いろいろな味付けの作品を楽しめました。あまり楽しめなかったのもないわけではありませんが,46編のショートショートと,「ハイパーショートショート」と名づけられた「一発芸」的超掌編60編もあるのですから,それも仕方ないでしょう。気に入った作品のみいくつかにコメントを。

「二十三時四十四分」 
 設定が幻想的というかシュールで,おまけに結末がなんとも不気味です。
「踊りの輪」 
 オーソドックスですが,怪談として秀逸だと思います。
「かたりべ枕」 
 この作者は関西出身なのでしょうか。関西弁の語り口の作品が多いです。奇妙でちょっと不気味な内容と,たんたんと語られる子ども口調の関西弁が,ミスマッチでおもしろいです。
「家族のスナップを売る男」 
 「ハイパーショートショート」の中の1編。こういった都市伝説風の掌編には弱いです。
「駅弁」 
 同じく「ハイパー」の1編。一種のパーティジョークでしょうか。
「毛糸玉」
 結末直前までやたらと不気味ですが,オチはなんともほのぼのしています。「おばあちゃん看護婦」というところがミソですね。
「雪の降る街」 
 ファンタジーです。「想い出が凍ったまま保存される街」という発想が好きです。
「絵扇」
 ミステリ仕立ての1編。スムーズな展開で,最後のオチで,「あっ」と思いました。
「苦情電話」
 最初は設定がよくわからないのですが,最後がなんともおかしいです。幽霊に「くわばらくわばら」と言わせてしまうところがいいですね。
「無口な水」 
 結末がもの悲しいです。伏線も効いてます。

97/06/16読了

go back to "Novel's Room"