小池真理子『見えない情事』中公文庫 1992年(~-~)

 作者の「あとがき」によれば,最初の短編集だそうです。サスペンス&ホラー,7編を収録しています。

「ディオリッシモ」
 疲れた躰をおして,仕事に向かった咲田悠子が,乗り間違えた電車でたどり着いたのは,彼女自身の過去だった…
 結局,彼女の「現在」は,11歳の彼女が見た“夢”だったのでしょうか? それとも,彼女は本当にタイムスリップしたのでしょうか? “ディオリッシモ”の香水の香りだけが真実を知っているのでしょう。でも,しょうしょうありきたりな話ではあります。
「春日狂乱」
 英司にとって桃子は,金をだまし取るだけの都合のいい女。それだけのはずだったのに,口にした出まかせが思わぬ結末を呼び…
 羊だと思っていた相手が,じつは狼だった,という日常に潜む狂気を描いた作品。こういう話は,けっこう好みではありますが,ネタ割れしてしまうのが残念。ところでタイトルの「春日」は「しゅんじつ」? 「かすが」?前者だと思うんですが,主人公の桃子がハイミスのOLなので,「お局さま」,つまり「春日の局」ということで,後者なのかなあ?
「寂しがる男」
 引っ越しして以来,“私”の周囲に現れる男の幽霊。結婚後,姿を消したように思えたのだが…
 途中までは,どこにでもあるような怪談といった感じですが,ラストは心底恐いです。とくにとって女性にとっては…。どうなんでしょうか?
「黒の天使」
 歌手として成功した宏治は,15年ぶりの同窓会で再会した女性と一夜をともにするが…
 うまいですね。伏線も効いてます。本作品集で一番楽しめました。なにより,命がけの人物の底知れぬ恐さがよく出ていると思います。
「車影」
 25年前,タクシーに乗った祖母が行方不明になった。そして今また“私”の傍らにも1台のタクシーが…
 奇妙なタクシーに乗って“あの世”に行くという発想がおもしろいですね。結末も「にやり」とさせられます。“黒い絵はがき”が,単なる効果ではなく,伏線になっているあたりが,いいですね。
「真夏の夜の夢つむぎ」 
 流行らないスナックを経営する,なまけもの夫婦。常連が7000万円の宝くじに当たったということでパーティを開くが…
 一種のブラックコメディですね。皮肉な結末です。「狂人らしからぬ狂人」を描かせると,やはりこの作者は巧いです。デビュー当時からだったんですね。
「見えない情事」
 平凡だが平和な生活を送る夫婦。リゾートで1組の夫婦と知り合って以来,夫の様子がどうもおかしい…
 ううむ。この作者,文庫版30〜50ページくらいの短編だと,その本領発揮という感じですし,また長編は長編でおもしろいのですが,80ページくらいの中編になると,どうもおもしろみに欠けるきらいがあるようです。この作品も,ふたつのネタを強引に結びつけたような感じで,いまいち中途半端です。

97/08/19読了

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