太田忠司ほか『名探偵は,ここにいる』角川スニーカー文庫 2001年

 ライト・ノベルというか,ジュヴナイルというか,そっち方面で,けっこう長い歴史を誇る本文庫が,ミステリ業界への参入を宣言した一連の作品のひとつです。収録された4人の作家さん,いずれも,本格ミステリの骨格を維持しながら,わりとサクサク読める作風の方ですね。本文庫のこれまでの読者層をかなり意識したライン・アップと言えるのではないでしょうか?

太田忠司「神影荘奇談」
 1年前,山中で遭難した彼は,とある西洋館で,この世ならぬ奇怪な経験をする…
 狩野俊介シリーズの1編(個人的には,なんだか久しぶりです)。もともとジュヴナイル的な色彩の濃いシリーズですが,今回,そのテイストがより強いと感じるのは,発表媒体に対する先入観ゆえでしょうか? コアとなっているトリックは,途中で見当がついてしまう類のものですね。むしろ冒頭から語り手のモノローグで始め,オカルト色を前面に出した方が効果的だったのでは?(最初から狩野俊介が登場すると,本編が「理」に落ちることが予見されてしまい,そういった「目」で読んじゃいますから) でも最後の幕引きがきれいでいいですね。
鯨統一郎「Aは安楽椅子のA」
 父親の“首”を探してほしいと依頼された“あたし”は調査を始める。自分の“馘”をかけて…
 ダジャレや語呂合わせの好きな(?)作家さんではありますが,今回の,文字通りの「安楽椅子探偵」には爆笑。主人公の聴力が突然失われたという設定がどう活かされるのかな? と思っていただけに,その「力業」に感心してしまいました(ラストの「落とし方」とも上手に結びつけていますね)。ミステリの定番「首を切断する理由」も納得できました。
西澤保彦「時計じかけの小鳥」
 書店で買った古ぼけた文庫本。そこに残されたメモから奈々は推理を繰り広げ…
 こちらもこの作者お得意の「妄想推理」です。小さな手がかりから,さまざまな仮説を作っては壊し,採用しては棄却し,といった展開は,相変わらず小気味よいですが,やっぱり,最終的な仮説を裏付ける「証拠」がほしいところです。それがないゆえに,ラストでの主人公の「決心」が,ひどく独りよがりのように思えてしまいます。
愛川晶「納豆殺人事件」
 司法解剖で胃の中から発見されたのは,生前,被害者が毛嫌いしていた納豆だった…
 この作品,シリーズものの1編なのでしょうか? 上の狩野俊介ものは既読なので,すんなり「世界」に入れましたが,こちらは読んでいてどこか「疎外感」みたいなのを感じましたね。ミステリとしては,「なぜ被害者は納豆を食べたか?」が,本編のメインの謎になるわけですが,ややインパクトに欠けるうらみがありますね。それと「知っていないとわからない」系トリックなので,その点でもあまり楽しめなかったです。

01/12/30読了

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