栗本薫『町』角川ホラー文庫 1997年(-o-)

 “うざったい恋人”知佳子を殺すため,一緒にドライブに出た貴広。ところが,山中でひとつのトンネルを通り抜けたあたりから,周囲の様子がおかしい。貴広のまわりで起こるさまざまな怪異現象。そして彼がたどり着いた先は,平凡で凡庸,どこでも見かけるような町だった・・・。

 ひとつひとつのシーンは,ときには不気味で,ときには気持ち悪く,ときには恐いです。テレビの画面の中から見つめる“眼”,ファミリーレストランで×××に変化するライス,×××のハンバーガーなどなど(なんか伏字ばかりですね(^^;)。そしてわたしの一番のお気に入りというか,不気味に思ったシーンは,次のようなものです。“町”から逃げ出すため,電車に乗った主人公は車中で眠りこけてしまいます。すると彼の周囲に,同じ顔をした老婆が次々と現れ,車両の中は彼女達でうまってしまいます。そして彼女らは,眠る主人公を取り囲むようにして「ホーッ,ホッホッホ」といっせいに嗤うのです。このシーンを,頭の中で映像化しながら読んでいると,「ぞくり」とするような不気味さを感じます。だからこの作品の個々の「シーン」は,それなりに恐いものがあります。

 じゃあ,物語としての恐さはどうかというと,はっきりいってあまり感じられませんでした。要するにストーリーとしては,奇妙な“町”に入り込んでしまった主人公に,さまざまな怪異が襲いかかり,主人公が驚き,おびえ,怒り,そして逃げる,といったことの繰り返しでしかないように思えます。“町”の正体が明らかになる結末も,それほど意外という感じもしません。だからシンプルといえばシンプルですが,単調といえば単調です。お化け屋敷の中を,ひとつひとつの仕掛けに驚き,おびえて,歩いて行くような,そんな感じです。まあ,それはそれでひとつの「ホラー作品」として成り立つのでしょうが,この手の映像性を強調した「ホラー小説」は,SFXを駆使した映画とか,アニメーションには,どうしても引けをとってしまうのではないでしょうか? 結局,ホラー映画のノヴェライゼーションとどこが違うんだろう,と思ってしまうわけです。これはあくまで個人的な趣味の問題でしかないのでしょうが,「小説としてのホラー」には,そういった「シーンとしての恐さ」とともに,「ストーリーとしての恐さ」みたいのを求めてしまいます。そんなこんなで,いまいち楽しめなかった作品でした。

97/08/21読了

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