和田はつ子『ママに捧げる殺人』光文社文庫 1999年

「人間はどんな人でも犯罪性を心のどこかに宿しているものよ。モンスターに育ててしまうか否かは人それぞれでしょうけど」(本書より)

 女子大生・上原愛奈は,傍目には品行方正な真面目な学生。しかし彼女の家族は崩壊寸前。父親は女遊びでめったに家に帰らず,母親は極度の肥満の上,愛奈を「醜い」と罵る毎日。二浪の弟は欲情に満ちた眼で愛奈を見つめる。そして彼女もまたつぎつぎと男を誘い,みずからを弄ばせた挙げ句に,猟奇的に殺していくサイコ・キラー・・・

 以前チャットで,市川さん@錦通信ぐりさん@いが栗の里が,口をそろえて「えぐい」とおっしゃっていた作品です。今回わたしも読んでみて,やはり読後の第一印象は,やっぱり「えぐい」でした^^;;。
 「サイコ・キラーもの」ということで,おぞましい殺人シーンがてんこ盛りなことは,まぁ,覚悟していたのですが(『SINKER 沈むもの』あたりに比べるとややおとなし目ですが),それに加えて,SMシーンや乱交シーン,女装趣味,拒食症,歪んだ母娘関係,家庭崩壊といった場面が目白押し,全編「鳥肌もの」のオン・パレードといった感があります。個人的には,やはりちょっとしんどいですね,この手の作品は・・・^^;;

 ストーリィは,ふたつの流れで構成されます。ひとつはサイコ・キラー上原愛奈を中心とした流れです。彼女がつぎつぎと犯していく猟奇殺人と,彼女の崩壊した家庭が描かれていきます。この主人公は,表面的には真面目な女子大生,しかしじつは・・・という設定なのですが,前者の表面的な部分が十分に描写されていない感じで,ふたつの「顔」のギャップ,みたいのがいまひとつ浮き彫りにされていない印象を受けます。
 もうひとつの流れは,このタイプの作品の定番,精神科医加山知子を中心としたものです。恋人の松井刑事が,愛奈による一連の猟奇殺人事件の担当をしており,彼に情報やサジェスチョンを与えるとともに,彼女の友人がその被害者となるという形で,民間人である彼女が事件に関わってきます。
 そしてふたつの流れがしだいに近づいていき,というお決まりのパターンではありますが,その「合流」の仕方が,どうも中途半端という印象が拭えません。加山知子の役回りは,その職業からでしょう,猟奇殺人犯の「解説」みたいな感じが強いですね。たしかに,彼女が手にした情報が,犯人絞り込みの手がかりにはなるのですが,少々偶然性が強く,説得力に欠けるうらみがあります。犯人が最初から明らかにされてしまっていることも,サスペンスを削いでいるように思います。また後半,彼女自身の人生が事件に深く関わることが明らかにされるとはいえ,ここでもまた,「わざとらしい」という感じが否めません。加山知子と上原愛奈との関わり方にもう少し工夫が欲しいな,と思いましたね。

 「サイコ・キラーもの」というのは,本格ミステリなどと違って,「あなたの隣にいるのがじつは・・・」的な性格,つまり「犯人の無名性」が特徴のひとつですから,捜査側が,犯人にたどり着くのに「偶然」がしばしば大きく働くことは,やむを得ないのでしょうが,やはりそこは描き方次第,プロットの組み立て次第でしょう。

99/02/17読了

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