ルーファス・キング『不思議の国の悪意』創元推理文庫 1999年

 それぞれに異なるテイストの作品8編をおさめた短編集です。

「不思議の国の悪意」
 隣に住む“魔法使いのおばあさん”から誕生日パーティにもらった「おみくじ付きクラッカー」。11年後,それは思わぬ「力」を発揮し…
 本格ミステリという「具」を,ファンタジィという「衣」でくるみ,フライにしたような,まさにタイトル通り「不思議の国」といった感じの作品です(わかりにくい比喩だ^^;;)。巧妙に引かれた伏線が後半で光っています。
「マイアミプレスの特ダネ」
 金持ちのわがまま娘が計画した取材。ところが思わぬ事件へと発展し…
 スラプスティク風味のサスペンス・コメディといったところでしょうか。キス・シーンはいかにもそんな映画めいた風情があります。これまたさりげない描写が,ラストで一気に効いてくるところは見事です。
「淵の死体」
 ミセス・ウェイヴァリーは,淵に死体を沈める場面を目撃したことから…
 ラストが少々唐突な感があり,もう少し伏線がほしいところですが,それまでの描写との落差が狙いなのかもしれません。
「思い出のために」
 敬愛する父親の死には,継母の恐ろしい陰謀が隠されていた…
 初出の1950年代にはあまり,この手の科学捜査は馴染みなかったのですかね? いまから見るとネタがバレバレといった感じです。でも少女の純粋な気持ちが,はからずも継母の邪悪な企みを打ち砕く,というアイロニカルな設定はおもしろいですね。
「死にたいやつは死なせろ」
 ビーチで発見された女性の死体。誰もが犯人はアーネストだと確信していたのだが…
 本集中,一番長い作品です。科学捜査のノウハウを事細かに描いている現在の警察ミステリのプロト・タイプのような作品。ミス・リードが巧いですね。ただちょっと冗長かなぁ・・
「承認せよ―さもなくば死を」
 労働組合から脅迫されていた男が殺された。4発の銃弾を撃ち込まれて…
 トリックそのものはけっこうおもしろいのですが,その使われるシチュエーションがちょっと危ういようにも思います。それとこの真犯人のキャラクタ設定は,差別にもつながりそうで,まずいんじゃないかなぁ・・・
「ロックピットの死体」
 浮気な人妻に,夫と愛人はそれぞれ殺意を燃やし…
 「殺意の交錯」が産んだ奇妙な状況,といった犯罪サスペンス。小池真理子などを読みつけていると,ラストでもうひとひねりを期待してしまうところですが,これはこれで,じんわりとした不気味さが伝わってくる幕引きですね。
「黄泉の川の霊薬」
 豪雨の中,富豪が薬の量を間違えて死んだ。その死に不審を感じとった医師は…
 「閉ざされた山荘」テーマの本格ミステリです。殺害方法がユニークであり,またその謎解きをする,探偵役である医師の推理も小気味よいですね。

99/09/03読了

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