デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』創元推理文庫 2003年

 「わたしがこれから語る出来事は,幻想的な話であっても“幻想”ではないのだから」(本書「へぼ作家」より)

 タイトルにあるように,ハリウッドを舞台にした短編7編を収録しています。

「生きる伝説」
 マリリン・モンローは,大統領とともにパーティに向かうが…
 「スターは銀幕の中で永遠に生きる」という比喩が現実化したグロテスクな世界。そんなありえないシチュエーションでありながら,どこか「ぞくり」とくる「怖さ」を感じるのは,本編で描かれているマリリン・モンローに代表される「スター」に対する「視線」を,わたしたちが共有しているからではないでしょうか。
「ハリウッドの嘘」
 落ち目の老プロデューサの脚本が,会社トップに取り上げられるが…
 前半の順調すぎる展開と,タイトルとのギャップが,そこはかとない不安を醸し出しています。そして“嘘”が明らかになった上でのもうひとひねり,それが,より深い苦みを出すことに効果を発揮しています。
「リメンバー・ミー?」
 “おれ”が,新聞記者をその店に連れて行ったのは,ある目的のためだった…
 アメリカでは有名な都市伝説をベースにした作品です。主人公は狂っているのか,それとも“本物”なのか? ラストで,主人公に,ある行為を「させない」ことで,両者の判別を曖昧にしたまま幕引きさせるところが巧いですね。
「へぼ作家」
 テレビ・ドラマ中の悪役が,そのドラマの脚本家の前に現れた…
 作家が,みずから産み出したフィクション中のキャラクタによって脅かされる,というパターンは,S・キング『ダークハーフ』にあるように,ホラーでは定番なのでしょう。ただし本編では,そこに脚本家・テレビドラマという設定・舞台ならではの,余韻のあるエンディングを作り出しています。
「名前の出せない有名人」
 ポルノ映画の男優トムが恋をした女性とは…
 今の日本だったら,青年マンガ誌に出てきそうなシチュエーションです。で,その場合では,ラヴコメ風味のハッピーエンドなのでしょうが,本編では,男女の間の「わだかまり」や「距離感」を丁寧に描き込みながら,よりリアルに感じられるビターな作品に仕上がっています。
「ぼくの幽霊が歌っている」
 スーパースターの“ぼく”にとって,不可能なことなどないのだ…
 ハリウッド事情に通じていないわたしでも,(最近,児童虐待で告訴された)さるスーパースターがモデルになっているのではないかと思わせる1編。スーパースター特有(とされる?)「奇行」が高じて,「あちら側」へと行ってしまうラストが驚きました。
「ハリウッド貴族」
 ハリウッドの“貴族”の一員になれるはずの結婚式の日,女優は逮捕されてしまった…
 けっこうハイレベルな短編集で楽しめたのですが,最後のこの作品は,ちょっといただけませんね。前半は,“貴族”階級に属するために殺人を犯す女優,という「2時間サスペンス・ドラマ」的な展開ですし(オープニングもわざとらしい),後半は,それが好評だったために作られた「続編」といった感じです。ハリウッドの内幕ものとしては,おもしろいのかもしれませんが。

04/02/29読了

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