東京怪奇作家同盟編『恐怖館』青樹社文庫 1999年

 なにやら得体の知れない(笑)「同盟」の作家さん9人による書き下ろしホラー・アンソロジィです。この手の本が出るというのも,「夏は怪談」という季節性もあるのでしょうが,それ以上に「異形コレクション」の成功に負うところも大きいのでしょう(「二匹目の泥鰌狙い」と言えなくもありませんが・・・^^;;)。「The House of Horror Vol.1」とサブ・タイトルがつけられていますので,2冊目以降も計画されているようです。
 執筆メンバは,わたしとあまり縁のない,ファンタジィや架空戦記物,ジュニア小説で活躍されている作家さんたちのようで,「異形コレクション」でときおり見かける早見裕司氏以外は,いずれも初見の方たちでした。
 気に入った作品についてコメントします。

牧南恭子「あいつ」
 駆け落ちのその日,“あいつ”の“スケ”は来なかった。そして5年の月日が流れ…
 「ホラー」というのとはちょっとテイストの違う,奇妙で不気味な復讐譚です。語り手のぞんざいな言葉使いが独特の雰囲気を醸し出しています。なかなか楽しめたのですが,苦言をひとつ。本書には田貫ねこなる人のカットが挿入されているのですが,終盤にはさまれた本編のカットは,最後のオチを予想させてしまい,いかがなものかと思います。
早見裕司「わたしのもの」
 ヒロシは,ブスでのろまな“あたし”に目もくれない。でも,殴られても,バカにされても“あたし”はヒロシのそばにいる…
 「幽霊屋敷」というか「お化け屋敷」というか,小さな温泉宿で,登場人物たちがつぎつぎと奇怪な方法で殺されていきますが,いずれも憎々しいキャラなので,あまり同情できません(笑)。「鏡の中のモンスタ」はイメージ的に好きですね。ラストはちょっと可哀想です。
秋月達郎「緑の薔薇」
 子どもの頃,見知らぬ老紳士からもらった緑の薔薇。“わたし”の住むアパートの一室は,その緑の薔薇で覆われ…
 前半は,SM風味のエロチック・ホラーのように展開していき,このまま破局へと転がり込んでいくのかと思いきや,後半になるとテイストが変わって,しんみりとしたエンディングとなっています。その点,少々バランスの悪い作品ではありますが(この「バランスの悪さ」は,他のいくつかの作品にも見受けられます),ラストの叙情性は好みです。こちらの方に焦点を絞った方がよかったのでは?

98/09/17読了

go back to "Novel's Room"